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メリークリスマス(伝勇伝・リズライ、レファ→ライ)

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強がりと、祈り



好きな女が出来た。
それはいつものことと言えばいつものことだった。もちろん、その全てに本気であるということだけは確かだった。
だけど、今回は少し違った。
恋が実らないのもよくあることだったけれど。その、レファルが好きになったキファという女子生徒は、同級生に恋心を抱いていて。レファルに勝ち目なんてなかった。もちろんそのくらいで諦める彼ではなかったのだけれど。
だけど、少しおかしなことになった。

キファを口説く。いつものように、俺のものになれよなんて。言外にライナのことなんて諦めて、と付け加えて。
彼女も最近ではすっかり慣れたもので「はいはい」と軽く流すだけになってきた。
それでも、少しだけ。
少しだけ、机に突っ伏して眠る彼に目を向ける。
嫉妬してくれたらいいのにとか、そんなことを考えているだろうことはレファルにもわかった。
可愛い女の想いを、どうしてこの男は気付かないのだろう。
苛立ちを抑えて、彼を見る。表情は見えない。いつも眠っている彼。
それを見て、やはり何かが込み上げてくる。
イライラする。


キファの想いを独り占めしておきながらそれに答えようとしないから?
キファを悲しませるから?
いつレファルが教室にやってきてもそれを無視して眠っているから?


イライラする。

最近、キファのことよりも、ライナのことを考えている自分に。
それは明らかに好意などではないのに。なのに、自分が今誰よりも好きなはずのキファよりライナのことを気にしている。
そんな馬鹿なことがあっていいというのだろうか。

幼馴染みのリーグルワーズも、最近付き合い悪いし、と思い出したように拗ねてみる。
アイツは絶対恋人でも作ったに違いない。幼馴染だ。これまでとの態度の違いにわからないはずがない。
明日はクリスマスイブだから、今頃その恋人とやらとデートの約束でもしているに違いない。どうせどこも混雑しているのだ。夜景でも見たいとせがまれて人ごみの中もがき苦しめばいい。それから恋人に高いブランド品でもおねだりされて困ればいい。
若干ひがみながらも、あのリーグルワーズに恋人が出来てたという事実に口元が緩む。
あの、リーグルワーズだ。
あの男に恋人など、からかったらどんな反応を見せるのだろうか。

苛立ちがおさまり、にやける。

あの、リーグルワーズに愛する人間が出来た。その事実だけで随分と楽しく、嬉しいものではないか。
もちろんひがみたくなる気持ちも事実だが。それでもあの男が愛を知ったというのはなんとも素晴らしいことではないか。
だから、明日の彼が上手くいくように、少しだけ祈ってやるつもりだったのだ。

その光景を目にするまでは。



   ***


「…………」

我が目を疑った。
リーグルワーズを見つけ、その隣にあの男を見つけた。
珍しい取り合わせだな、と思った。案外仲が良いのかもしれない。幼馴染の交友範囲全てを把握するほど男に興味はなかったから、知らなかっただけで。
二人は少しの距離感を保ちつつ、何か会話しながら歩いている。仲がそれほど良いとは思えないような、何かを感じさせる距離感。喧嘩でもしているのか、それとも、元々仲が良くないのか。
少しずつ近づいていくとなんとか会話が聞こえてきた。

「で、どうすんの」

少し楽しそうに、リーグルワーズに尋ねるライナ。
「終業式終わったらそのまま家、でいいか?」
「そうですね」
会話の内容は明日二人で家で遊ぼうといったところだろうか。
……イブに男二人で遊ぶって、こいつらには恋人はいないのだろうか?

リーグルワーズに恋人が出来た、というのはただの勘違いだったのかもしれない。

「あ、でも親父いるかも」
「そろそろ挨拶がいりますかね」
「いや、親バカだから殺されるぞ」
よくわからない会話をしながら、ゆっくりと歩き続ける。リーグルワーズの家を通り過ぎても、まだ彼らは会話を続ける。
自分の家が遠ざかるのを背中に感じながら、彼らの後をつける。
「プレゼントはさ」
「え」
「や、何でもない」
そうして一軒屋の前で立ち止まる。おそらくライナの家だろう。
「おやすみ、また明日」
まだ夕方だったけれど、ライナにしてみれば帰った途端に眠るのだろうから、間違いではないだろう。「おやすみなさい」とリーグルワーズが返す。

そこで、レファルの時が止まった。

ライナの顔が、近づいていく。
その先に、リーグルワーズの顔がある。ちょうど二人の顔が見える位置にいたレファルは「あ」の形に口を開いたまま固まっていた。
恥ずかしそうにほんの少し顔を朱に染めたライナ。驚き、戸惑い、その中に僅かな喜びを表情を隠したリーグルワーズの顔。
瞬間、全てを理解した。
リーグルワーズのもライナにも恋人がいて。それは今彼らの目の前にいる人物で。
つまりはそういうことだった。

「……馬鹿みたいだな」

どうして自分は傷ついているのだろうか。
このことを知ったキファが悲しむから?
違う。
今、このことを知って、自分が悲しんでいるのだ。
キファのことを好きだったはずなのに、いつの間にかライナを好きになっていたのだ。
それを知ったのが今だなんて、本当に馬鹿らしい。
馬鹿らしすぎて、笑うしかない。

「馬鹿みたい、だな」

馬鹿らしい。
本当に馬鹿らしい。


明日はクリスマスイブ。
幼馴染みの幸せを祈ってやろう。

(ほんの少しの強がりと、本音と)



―END―


レファルさんごめんなさい……
本当はもっともっと可哀想な目に遭わせたかったのですが、あんまり可哀想に見えない感じになってしまいました(そっち?)

本当は先に自覚させてからキスシーンを目撃させてしまえばよかったのかなあと反省しつつ。
これは本当にレファルさんとライナとリーズさんなのかしらと今更すぎる疑問にぐるぐるしたり。

と、とにかく、メリークリスマス!