歓喜の歌は己が為に響かせる 前編
しかし、鬼道さんは鬼道財閥の御曹司であり帝国学園中等部の中枢部にいるようなお方。うちのクラスにいらっしゃると、他の生徒が怖気ついてしまうためやっぱりあの会議室の控室で食べることになった。教室にいた辺見にそれを言うとあいつは喜んでいた。
辺見が必死こいてノートを写した英語と数学の授業は何事もなく過ぎ、昼休みになって二人で教室から移動する。会議室のフロアに行くと、どこからともなく音楽が聞こえてきた。約束の部屋の扉をノックすると鬼道さんの返事が聞こえてきたので、開けるともちろんだが源田と鬼道さんがおり、ここにその音源もあった。
「これ第九じゃん。」
「辺見、知ってるのか第九を。」
俺がバカにするように言うと、バカにすんな!と辺見に怒られた。
俺が鬼道さんの隣に座り、辺見は源田の隣に座った。今日は洋風な弁当なようで、スパゲッティやオムレツがあった。相変わらず、弁当箱が重箱ではあるが。しかも、音量が小さめとはいえ第九の第四楽章という組み合わせ。
なんだかちぐはぐな感じがした。
しかし、談話をしながら食事をとっていれば然程気にならず、恐らくオーディオから流している第九は源田が歌を覚えるために流しているのであろうが、完全なるBGMになっていた。
それから、四人とも食事をほとんど終え、鬼道さんが箸を置いたかと思うと制服のポケットから何やら取り出していた。
「佐久間にはもう今日は、昼休みくらいしか会えないからな。」
差し出された封筒、鬼道さんを窺うと開けていいと頷かれ中身を見るとチケットのようだった。
「これ――演奏会のチケットですか。しかも、二枚。」
長方形の紙には団体名と演奏会の日時と場所が書いてあった。しかも、貴賓席……!
「頂いたものなんだが、俺が行くよりも、佐久間と源田が行った方がいいだろう。二人で行って来い。」
俺だけが固まっているのかと思っていたら、源田も固まってゆっくりとこちらを見てきた。そのとき丁度、オーディオがリピートして第四楽章の冒頭が流れ始めた。
to be continue...
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作品名:歓喜の歌は己が為に響かせる 前編 作家名:さらんらっぷ