二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
さらんらっぷ
さらんらっぷ
novelistID. 17853
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

歓喜の歌は己が為に響かせる 前編

INDEX|7ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 



スッと景色がシフトして白い重みのある布を見て、感じた。暖かい。保健室のベッド。いつのまにか外れていた眼帯を手さぐりで探して、顔につけるために起き上がろうとすると、その存在に気付いた。
「起きたか、もう気分はいいのか?」
俺の傍らには何故か源田がいた。こいつから逃げるためにここに来たようなものなのに、空気が読めないのだろうかこの男は。
「十分寝た。で、何の用だ?」
こいつが俺の隣にいる義理はない。
「ああ、鬼道からの伝言だ。もし、体調が悪いなら今日は部活動に来なくてもいいって。」
心の中に何かが湧きだつように感じた。それは怒りであり――恐怖だった。
「源田、お前はなんで合唱の話、引き受けたんだ?」
急な話題ではあったが、源田は普通に答えを出してくれた。
「折角、頼まれた話だしな。佐久間もそうじゃないのか?」
「俺は――、俺もそうだ。あの音楽教師に頼まれて出たんだ。」
「じゃぁ俺と同じだな。」
こいつは不安に感じないのだろうか。鬼道さんと、総帥が許可を出して自分がいらない存在であると暗に伝えているのではないかと。そういう勘繰りもしないのだろうか。聴いてしまえば、それは俺の本心をさらけ出すことになる。口は閉ざした。
「部活動は出る。早くお前も行け。」
「ああ、待ってる。」
源田は笑顔で、ようやく保健室から去った。
 それからやっとのことで眼帯をつけることができた。人に顔を見られるのは久しぶりだった。とは言っても、髪の毛がぼさぼさだったからこの右眼はそんなに見れなかっただろう。髪の毛も手櫛で整え、眼帯の位置も調整してから、急ぎ足で教室へと向かった。早く荷物をまとめてサッカーの練習をしなければ。


 もう人のいなくなった部室で一人着替えて屋内グラウンドに向かう。もう三年生も引退し、レギュラーメンバーが変わったため鬼道さんはいつも個々人のステータスの把握をし、ゲームメイクをスムーズに行うため、俺たちに個人ごとに、あるいはメンバーを選出して合体技の練習をさせていた。
 今日は同じ一年でフォワードの寺門と初等部六年生の洞面と一緒に合体技の練習をする予定になっていた。何故、初等部の生徒がいるのかといれば、初等部で力のある者がいれば、放課後は中等部サッカー部の練習に参加させて、来年あるいは再来年の試合のために準備をするためだった。戦いは常に、準備を怠らない者が勝つのだ。
 鬼道さんが見守る中、俺と寺門、そして洞面の三人で合体技を完成させるため何度も挑戦する。問題があれば鬼道さんが指摘する。もちろん、俺や寺門も洞面も気付いたらすぐにそれを言い合い、修正を施す。その話し合いをしているとき、俺は鬼道さんの隣をちらりと見た。源田がいるのだ。
「おい佐久間、何かあったか?」
寺門に言われ、自分の顔が歪んでいたことに気付く。
「いや、なんでもない。それより、完成を急ごう。鬼道さんの期待をこれ以上裏切るわけにはいかない。」
しかし、いつまで経っても俺たちの技は完成の兆しが見えなかった。
 時間だけが過ぎていき、息が上がっていく。
「そろそろ時間だ。」
鬼道さんの声。寺門と洞面はやっとか、という顔で帰ろうとする。
「まだ……まだなんだ。」
「早く帰りましょう、先輩。」
「そうだ。ここもあと一時間で閉められる。」
「完成、させなきゃ。」
だが情けないことに、足はもうヘトヘトで歩くのがやっとだった。寺門に背中を押され、否応なくグラウンドから出てしまった。
 「焦ってるのか?」
「焦る?普通、焦るだろ。なんでできないんだよ。」
寺門は苦笑した。
「できない、からできないんだろうな。だけど、少しずつだがタイミングもあっている。
焦るとまたタイミングがずれるぞ。」
「でも……。」
宥めるかのようにポンポンと背中を叩かれる。
「大丈夫さ、また次、決めていこう。今日はもう俺たちの体力が限界だ。また体力を戻してから練習やろうぜ。」
部室に戻り、それぞれのロッカーの前に散らばる。寺門はそれでいいのかもしれない。でも俺は、鬼道さんの参謀として頑張らなくちゃいけないんだ。必殺技も、はやく完成できるくらいにならなくては。


 メンバーと別れて学校のロータリーに向かう。迎えの車があるはずだ。すると隣に影が走ってきた。
「お疲れ様。」
「なんだ、必殺技ができない俺を冷やかしにきたか。」
なんでそうなるんだ、と源田が苦笑した。
 冷ややかな廊下に白い照明が足元から照らしだしてくる。廊下が暗いため、遠くはそんなに見えない。
「もう体調は平気なのか?」
「心配される程じゃない。」
「佐久間は大変だろ?オーケストラに、サッカーに、鬼道のサポートもやっているから……。」
「そういうお前だって、合唱に、サッカーに、いつも鬼道さんの隣で頑張ってるみたいじゃないか?」
「佐久間ほどじゃぁない。」
それからしばらく沈黙が続いた。ちらりと横の源田の顔を窺うと、表情が硬かった。廊下が暗くて陰りができているせいだろうか。いつものあの笑顔が薄いように見えた。
 俺から話すことなんてないから、ロータリーまで話さずじまいだった。別れ際、ようやくさよならを言って源田と別れた。学園から出発し、夜道を車が走り出す。すっかり暗くなった景色は目に優しかった。明日の放課後はまたオーケストラの練習だ。予定表によれば最後の一時間、合唱と合わせるらしい。ということは、源田もいるのだろう。
 翌日、家からヴィオラを持って登校した。サッカー部の朝練はもちろん参加し、一汗かいてから学校の授業に入った。予習ができなかったという辺見に頼まれて、英語と数学のノートを見せてやり、代わりに献上品として売店で昼食を買ってこいと命令すると、「どうせ源田が持ってくるぜ?」と言われた。
「なんで源田が?」
「昨日、そうだったじゃねぇか。」
「昨日だけじゃないのか?」
その後、辺見はノートを写すのに必死で、会話があまり成り立たなかった。席を外し、鬼道さんと源田のいるクラスを目指す。廊下には休み時間のため出歩く生徒で溢れていた。その途中、人山ができているところに一人だけ頭一個飛び出しているのがいたと思ったら、目指しているクラスの人だった。
「あ、佐久間。」
人山、もとい女子をかきかけてこちらに来たものだから、女子から睨むような目で見られてしまう。
「今日も昼食持ってくから、売店買わなくていいぞ。」
「――そうかよ。」
呆れる俺に対して、源田はニコニコと笑っていた。やっぱり、昨日の硬いように見えた顔は照明の暗さのせいか。
「でも、明日からはもういい。ちゃんと食べるようにするから。そうすればいいんだろ?」
「あ、いや、もしよければだが――。」
口をもごもごさせる源田の足元に軽く蹴りを入れて先を促す。
「どうしても多く作りすぎるから、これからも一緒に食べてくれないか?鬼道も一緒だし。」
ふん、鬼道さんをエサに俺を釣ろうというのか、こいつは。そ、そんなものに俺は釣られ……、
「鬼道も佐久間と一緒がいいって言ってたし。」
「喜んで一緒に食べようじゃないか!」
ここ数週間で一番いい顔だと思う、俺。