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スノウグローブ

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重なって、擦りつけて、絡まり合って、迎えた果て。
「なあ、」
冬だというのに湿って暖かな、石鹸と幸せの匂いのするベッドの中。仰向けに横たわり、杉江は手の中のそれを枕元の明かりに翳した。
「なあ、起きてる?」
視線を手の中へと据えながら、傍らの温もりへと小さな声で呼びかける。
呼びかけに揺れた手指の間、スタンドの暖色灯の明かりを受けて、きらきらとかすかな光がこぼれる。針先ほどの小さなホログラムの粉が、ふわりと舞ってくるくると揺れた。
「ね、クロ?」
「……ン、だよ」
眠ってしまったのなら仕方がない、そう思いながらも、ついつい諦め悪く三度目の呼びかけをしたところで、低く小さな応えが返ってくる。ぼんやりと、どこか間延びしたような声音は眠そうで ごめんね、と口の中で謝罪する。
「どうか……したのか?」
なにかあったのか?
それでも天井へと伸ばした手の中、透明な球体を弄ぶ杉江へと、遠慮がち、黒田が問いかけた。
なにか、気がかりなことがあるときは、ついつい手癖が悪くなってしまう、対黒田限定の悪い癖をどうやら見抜かれてしまったようだ。少しばかりきまり悪く、けれど、見抜かれてしまったことがどこか嬉しい。微かに笑んで、杉江は ううん、と否定の言葉を口にする。
「どうでもいい、小さな疑問を思い出しただけ……」
曖昧に言葉の結びを濁しながら、無造作に天井へ向かって手の中の球を放る。透明な球体の中で、めまぐるしくホログラムが揺れて、ちかちかと複雑な光を反射させる。
放り投げたそれを両手でキャッチして、そのまま傍らに横になる黒田へと手渡す。黒田も先ほどまでの杉江のように、スタンドの灯りに透かしているのが、壁に映る影でわかる。
「なん、ったっけか……?」
「これ? スノーグローブだよ。誰から貰ったのか、なんで貰ったのか忘れちゃったけど、ちょうどクリスマスだから」
「ああ、そんな名前だったっけ」
黒田へと渡したスノーグローブの中には、子供とツリーが納められている。送り主もいつ貰ったものかも杉江は覚えていない。気づいた頃には子供部屋の本棚の片隅に飾られていて、ちょうどこんな時期になるとふと思い出して取り出す、そんなものだった。
「ふうん……ツリーと、子供か。小っせーのに細けェとこまで色々作られてるんだな」
「うん」
ちょうど、野球ボールほどのサイズの球体の中には、飾りたてられたツリーと、そのツリーの下に座る小さな子供の姿が納められている。
「けど、こうやって改めて見るとよ、キレーなモンだな」
しげしげと眺め、黒田が小さく漏らす。男がスノーグローブを振ると、ふわりと粉雪が舞った。杉江のよく知る黒田の、しっとりと滑らかな感触の手の中で、きらきらと光が弾ける。
「そうだね」
同意して、ころころと手のひらでスノーグローブを転がす黒田の手元を、杉江も黙って見つめた。

作品名:スノウグローブ 作家名:ネジ