Confetti candy Love(英米)
涙で濡れているテキサスを外し、アメリカの胸ポケットに仕舞う。
不思議そうにこちらを窺うアメリカの頬を流れる涙をぺろりと舐めとった。
舐めとった涙は塩辛いはずなのにまるで蜜のように甘い。
驚きのあまりに固まってしまったアメリカの頬を両手で包んで俺は零れる涙を
さらに吸い上げた。
張りのある肌は口唇で触れると心地が良い。
こんなに心地の良いものに今まで手を伸ばさなかった自分に拍手を送りたい気分だ。
「イギリス・・・?」
俺のしたことの意味がわかっていないのか、アメリカは逃げようともせずに
俺の名前を呼んだ。
ぷるんとした瑞々しい口唇に噛みつきたくなる思いを堪えて俺は顔を近づける。
普段、リップクリームなんて塗らない癖に女みたいにきれいな口唇。
その口唇に噛みついてやったらアメリカはどんな反応をするのだろうか。
さすがに怒るとは思うんだが、これだけ軽蔑されているんだから
今更気にすることもねえよな。
だが、怒るならまだいい。
けどさっきみたいに泣かれちまったらそれこそ理性が持つかわからない。
だからせめて泣きやむようにと宥めようとしたんだが、何故か青ざめたアメリカが
逃げだそうとしやがったからつい抱きしめてしまった。
俺よりも体格がよく、力もあるアメリカは逃げだそうと思えば簡単に
逃げられるはずだった。
俺だって衝動的に抱きしめてしまったが、アメリカが本気で嫌がるなら
止めようとは思っていた。
けれどあいつは逃げるどころか背中に手をまわして、ぎゅっと抱きついてきた。
一瞬背骨が折れるかと思ったが、その痛みすらアメリカの温もりの前に
苦笑を浮かべるだけに留まった。
これがフランスだったらまず抱きつく前に洗礼の拳か蹴りを入れているところだ。
アメリカだからこうして抱きしめている。アメリカじゃなきゃ許さない。
それがこいつにも伝わって・・・・・・いないよな。
つうか、まだ泣いているのか。
・・・・・・いや、泣きもするよな。あんな理不尽な暴力を振るわれたら。
だけど、逃げないでこうして抱きついてくれるってことはまだチャンスがあるはずだ。
こいつは好き嫌いがはっきりしているから本気で嫌だったらとっくに逃げている。
だから俺はきちんと言わなければいけない。
あのときのように伝えないまま、駄目にしたくないんだ。
「好きな奴に泣かれたくない」
泣きじゃくるアメリカをしっかりと見据えて俺は一世一代の勇気を振り絞って告げた。
泣かせた奴が何を言っているんだと言われようが、俺はアメリカに
泣いてほしくなかった。
俺の言葉を聞いて、ぱちりと瞬きをしたアメリカはうええ、と今までに聞いたことのない泣き声をあげ、再び涙をぼろぼろと零し始めた。
そんなに泣くほど嫌だったのか。
突き付けられた現実にざっくりと胸を抉られる。
がっくりと項垂れてアメリカを解放して俺はこの場を立ち去ろうとした。
さすがにこれほど明確に拒否されて、ここに居られるほど俺の神経は太くない。
つうか俺の方が泣きてえよばかあ。
だが、そうして背を向けようとした俺をアメリカの一言が押し留めた。
「嘘だ・・・・・・」
かすかに震えた声は否定の言葉なんかじゃなかった。
本当に好きなのかと問いただす言葉だった。
諦めかけていた気持ちを奮い立たせ、言葉を返す。
「嘘じゃない。お前が好きなんだ」
二枚舌外交などと言われる俺の言葉をアメリカがどこまで信じるかわからなかった。
実際にこいつにも何度も嘘に限りない近い言葉を突き付けたことがある。
だから俺の言葉が信じられないというのは正しい感覚だ。
けれど、それでも俺は、この気持ちだけは疑ってほしくなかった。
どれほど時が経とうと情勢が変わろうとこの気持ちだけは変わることはないんだ。
だから信じてくれ。アメリカ。
はくはくと喘ぐように口を開閉していたアメリカはしゃくりあげるのを止め
顔をあげた。
涙に濡れた綺麗なスカイブルー。
その瞳がきゅうっと細まるのと同時に首の後ろに手を回され思い切り引き寄せられた。
「―――――ッ」
ギリギリのところで勢いを殺し、歯がぶつかることだけは免れた。
自分の馬鹿力を考えろよだとか俺がうまく受け流さなかったらお前だって
怪我していたんだぞとか言いたいことはたくさんあった。
だが、そんな些細な文句を吹き飛ばすほどの圧倒的な幸福が俺を満たした。
こんなに泣きそうになるほど幸せな気分になったのはあの時代以来だ。
アメリカがまだ俺の植民地であった時代。
その時以来のちょっと頭が吹っ飛びそうなほどの幸福に俺は満たされていた。
舌を潜り込ませてもアメリカは抵抗をしない。
苦しそうに眼をぎゅっと瞑りながら俺に必死にこたえようとする。
「これがお前の気持ちだって思っていいのか」
本格的にアメリカが呼吸を忘れる前に口唇を離し、我ながら必死な声で
アメリカに問いかけた。
普段のアメリカだった一カ月、いや何年もからかってきそうな必死具合だ。
俺だってもしもアメリカ以外の奴がこんなふうに問いかけてきたらからかってやる。
けれど、今だけはどんなに笑われてもからかわれても諦めることなんてできなかった。
きっとこいつは今を逃したらいつものアメリカに戻ってしまう。
そうしたらまた顔を見れば嫌味や皮肉の応酬。好きだなんて言葉は
簡単に吹き飛ぶ日々が待っている。
だからこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。
キスの余韻でぼうっとしていたアメリカが遅まきながら俺の言葉の意味を理解したのか
元々赤かった頬をさらに赤く染める。
そして唇を噛みしめながら恥ずかしそうにこくりと頷いたとき、頭の中でビッグベンの
鐘が高らかに祝福を告げたような気がした。
その後、俺は正式にアメリカに付き合いを申し込み、耳まで真っ赤にしたあいつが
イエスと言ってくれて、俺たちは付き合い始めた。
あいつは相当な意地っ張り・・・いや、俺もか。
とにかく素直になるのが苦手なもんだからそれなりに喧嘩はした。
アメリカの顔面にスコーンを投げつけてやったことだって一度や二度じゃない。
それでも俺たちは何とか恋人としてうまくやってこれた。
だが、そんな俺たちに暗雲が立ち込めた。
きっかけは今から一週間前。12月17日のアメリカとの電話の最中に
俺はある言葉を投げかけられた。
作品名:Confetti candy Love(英米) 作家名:ぽんたろう