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今宵呼び鈴は鳴らず

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定例のように型取られた一人きりの聖夜を満喫する。小一時間前から降り始めた雪を見ては寒さを改めて感じる。そろそろ炬燵を購入するべき時が来たか。孤独極まりない一人炬燵はあんまりなので、実家の炬燵を懐かしんでいた竜ヶ峰を招いて蜜柑の皮でも剥いてやろうか。視界に入れるだけで庇護欲を駆り立て育てさせる隣人は今何をしているだろうかという、ふとした想いに寒かった筈の心は穏やかに暖かくなっていて、隣人にささやかな感謝をする。


時計の尖った針が深夜を瞬く間に越して行く。他人にとっては特別かもしれない夜が更けていくのを只じっとしていれば、ベランダ側に間取られていた窓が躊躇いなく開く音がした。こんなご時世であると、聖なる夜ですらのんびり出来はしないらしい。どれいい度胸だとのんびり立ち上がるも、予想は完全に外れていた。
「こんばんは、平和島さん」
「こんばんはか…竜ヶ峰」
いやー、こんな夜更けにも起きていらっしゃるとは、とぼやきながら頭をかきつつ、白く大きな規模の袋を狭い背に苦心しながらも背負う隣人が居た。秋に中々帰宅しなかった事情はこの件についてかと、何ヶ月も悩んだ末にようやくの見当が付いた。
「なあ竜ヶ峰」
「はい、平和島さん」
「帝人、って呼んでもいいか。その代りになるか分からないが、こっちは静雄でいいから」
ついで、背中のそれ大変だろ、見てるだけで危なっかしくて仕方ないから背負わせてくれないかと志願する。
「嬉しいです。ありがとうございます、すごく助かります、静雄さん」

浮かべた和ませる表情は隣人らしい、とても愛くるしいものだった。




春が夏に寄り添うように、夏の秋を羨むがごとく、秋が冬を待つことに重なり、冬の春を焦がれるそれみたいにそのこを想う。
それだけで十二分に満たされる。そうすることで、四季の廻りを実感する。



チャイムの軽やかな音が部屋に届いた。
作品名:今宵呼び鈴は鳴らず 作家名:じゃく