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あい?まい?みー?MINE!! 番外編

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帝人が平和島家を訪れる事になった理由







 静寂に包まれた図書館は、紙から香る独特の匂いと、穏やかに過ぎ行く空気が、人に時間と言うものを忘れさせる。
初めて2人きりで行った家庭教師の真似事から、数えてそろそろ両手に差し掛かろうとする所であった。
ファーストフード店で事の詳細を話し合った際は1日おき程度の頻度であった筈が、気付けば毎日顔を合わせる事になっている。
連絡先を交換し合い、互いの都合がつけば図書館へと足を運ぶ日々である。
帝人の自宅がある地域は田舎であったから閉館時間が6時、などと言う聊か早過ぎる時間帯であったのだが、ここは流石首都東京の都心部である。仕事帰りの社会人も利用出来るようにと、9時まで開けていてくれるので非常に有難かった。
とは言えども、幾ら見掛けは大人びていても、静雄はまだ中学生であり、制服のまま平然と歩かせるには問題があり過ぎるので、大抵、その1時間前には切り上げるようにしている。
中学校での放課後学習会がある時は2人揃って図書館へ向かい、それが無い日は現地で待ち合わせる。
まるでデートのようだと、どちらかが思ったかどうかは定かでは無い。

静雄の希望により、今までは数学と英語だけだった教科数が、主要5科目へと増えた。
それとなく静雄の成績状況を聞いてみた所、どう贔屓目に見ても辛うじて理系と、得意な科目は体育だと言う返答を受け、帝人は改めて本腰を入れなければならないと気合が入った。
どちらかと言えば文系である帝人だったが、中学生の内容となれば、どうにかオールマイティにこなせる。
教科書や書店で参考書を見たりしながら、帝人は静雄の勉強を助けてやるのだった。

本日の教科は社会である。
要は、静雄は暗記やはっきりと正解が出ない教科が苦手のようで、特に最たる社会の歴史では、どうにかこうにか人の名前と年号を覚えて貰う事に帝人も必死の様子だ。
読書が好きな帝人は、割合と記憶力も良く、時代小説も読むので何の事は無い作業でも、本は読まない、昔の出来事に興味も持てない、な静雄には、辛い作業である。
ノート一面を埋め尽くす年号と人物、帝人が何とか覚えられないかと頭を捻って編み出した語呂合わせの文が、ビッシリと埋まっている。
それでも、少しずつ静雄は記憶出来ているらしく、抜き打ちの小テストを行っても、正答率が8割を超える様になってきていた。


「はーっ、お疲れ様、平和島君。ちょっと休憩しようか。」

集中し始めてから1時間。
帝人の緊張感故の肩の凝りも、静雄の精神力の疲弊具合もピークに達していたようで、揃って盛大に息を吐き、示し合せたような行動に目を小さく見開いて、2人は少し笑った。

「先生って、アレっすね。絶対肩凝り酷そう。」

「うん、そう。遺伝かなぁ。母親が凄く肩凝り易いんだよ。」

軽く腕を回すと、コキッ、と音が鳴る。
夜に風呂で良く解しておこうと帝人が考えていると、抑えられた声で、「竜ヶ峰先生は、確か1人暮らしなんでしたっけ。」、と声を掛けられた。

「そうだよ。高校の時からかな。」

「凄いっすね。自炊とかするんすか?」

「凄くなんか無いよ。面倒な時は買っちゃうし。そんな凝ったもの作れる訳じゃないからさ。」

苦笑する帝人に、しかしながら静雄は感心したように小さく頷いている。

「でも、家事とかって面倒じゃないっすか。それをちゃんと出来るって、やっぱ凄いっすよ。しかも高校ん時からなんすよね?俺は絶対やらない自信があります。」

神妙な顔をして1人納得している静雄に、帝人はつい笑ってしまう。

「僕も1人暮らしして初めて親の有難みが分かったんだよ。今ならどんな親孝行でも出来そうな位。あっ、そう言えば、平和島君の家族の話とか聞いた事無いよね。」

「1人っ子?」、と訊ねる帝人に、ゆるりと横に首を振って、「下に1人、居ます。」、と静雄は弟の顔を思い浮かべながら答えた。

「俺より3つ下なんすけど、俺とは全く正反対な奴っすよ。」

「正反対?」

「えぇ。あー、なんつったっけ、反面教師?、とか言うヤツで、俺がこんな短気で直ぐ顔に出る様な兄貴なんで、逆に弟は、滅多に表情が動かない、物静かな奴になっちまったんですよ。」

諦観を含む、悲しげな笑みを浮かべた静雄は、自分の手を眺めた。
自制と言う言葉をちゃんと自分の物に出来ていたら、弟は今でも、多少乏しい表情ながら、笑えていたのだろうか、と、静雄は後悔している節がある。
多動な兄とは違い、口数も行動も静かな弟。
その表情の無さと態度から、弟があまり学校で上手くいっていないのだと言う事実は、密かに静雄の悩みの種である。
目の前の人に相談したら答えをくれるんだろうかと、ぼんやり考えていると、相槌を打った帝人は、逡巡し、躊躇いがちに静雄の頭に手を伸ばすと、ポンッ、と置いた。

「……っ、は、?」

「じゃあきっと、弟君は君の事をちゃんと見て成長したんだ。平和島君と、弟君。揃って一人前。仲の良い兄弟だね。支え合える関係って、素敵だよ。」

だからそんな顔しないんだよ、と、口には出さない言葉が聞こえた気がした。

「あぁ、でも、兄弟ね。良いなぁ。僕こそ1人っ子だから。」

「そんな感じっすよね。」

「えっ、それはどう言う意味なの。」

頬を膨らませてムッとした表情を作りつつ、帝人は内心、ムードを変えられた事にホッとしていた。
静雄の自分嫌いは筋金入りである。それこそ大事小事に関わらず、自分にまつわるマイナス面を大袈裟に捉えて背負い込む所もあった。
見た目に反し、メンタル面が弱いようだ。帝人としては、彼に少しでも、自分に対する自信をつけて貰いたい。

「深い意味は無いです。それより、手、退けてくれないっすか?」

「へ? あっ、うん、御免。嫌だった?」

「嫌だった、っつーか…」

言い難そうに口籠る少年を、帝人は辛抱強く、首を傾げて待つ。
静雄は、きっと言ったら更に微笑ましがられるんだろうなぁ、とは思いつつも、結局口に出してしまった。

「……子供扱いされてるみたいで、恥ずかしいんすよ。」

眉根を寄せ、視線を逸らし、入り込む夕日の橙にも霞まず染まる頬に、静雄の予想通り、帝人はふんわりと、微笑んで静雄の頭をクシャリと撫でた。