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あい?まい?みー?MINE!! 番外編

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「最近、兄さんの帰り、遅いよね。」

 夕方、明りの灯る家々の数が次第に増えて行く中の1つの過程で、少年はほぼ動かない表情筋でもって平坦に問うた。
対象とされている女性は、帰宅する家族の為、せっせと夕飯の支度に余念がない。
スッキリとした顔立ちながら、滲み出ているのは年相応の落着きと、快活さである。
パタパタとスリッパの音を響かせながら、幼子に向かって声を上げた。

「そうねぇ。幽、何か聞いてる?」

幽、と呼ばれた少年は、女性の言葉に緩く首を横に振り、「母さんなら聞いてるかと思ったんだけど。」、と返した。

"平和島"の表札が掛かる一軒家に居るのは現在、女性と少年の2人である。
その女性、平和島静雄の母親の抱える最近の心配事は、少年、平和島家次男が発した言葉、まさしくそれである。

近頃、長男である静雄の帰宅が遅い。
以前は学校が終われば真っ直ぐに帰宅していたのだが―母親としては、友人と出掛けるなどして多少は遅くなってくれても良かったのだが、残念な事に、そうと呼べる人は息子の性格故中々出来なかった―、少し前から、連日の様に時刻が9時に近くなっている。
特に非行などの心配はしている訳ではないし、喧嘩に巻き込まれているとしても、自身の子供がそうそう簡単に負傷させられる事もないのだと知っている。逆は有り得るかもしれないが。
「友達と遊んでるの?」、と聞いても、「別に。」、の一言で済ませてしまい、帰宅して夕食を取れば真っ先に部屋に籠って、机に向かっている。
これこそが最近で最も驚くべき変化なのだが、学校の宿題とはまた別物であるように見える。
放課後学習会と銘打ち、聊か成績の振るわない静雄の学習力の向上を目的に補習をしている事は、事前に学校から知らされていた。
そうであっても、学習会は週2回の頻度だと言うし、ではここ暫く帰宅が遅くなっている理由はと言えば、これはもう、彼女が本人から直接訊くしか方法は無い。

と、考えていると、ただいまを告げる渦中の人物の声と、玄関扉を締める音が聞こえた。
時計を見ると、丁度9時になった所だった。
夕飯にするには多少遅い時間ではあるが、平和島家では"食事は家族揃って"、が基本であった。
大黒柱である父親は既に帰宅しており、あとは静雄だけであった。

「おかえり、静雄。」

「あぁ、ただいま。」

「早く制服脱いでらっしゃい。お父さん待ちくたびれてるわよ!」

生返事をして自室に上がって行く息子の背を、母親は小さく溜息を吐き、見送る。
夕食の席で聞いてみようと、小さく決意をして。


「兄さん、最近なんで帰り遅いの?」

全員揃った食卓で、いただきますの言葉の直後、直球で問い掛けたのは、母親では無く、弟である幽であった。
夕飯のおかずに手を伸ばそうとしていた静雄の手が、ピタリと止まる。

「……何でって…あぁ、悪ぃな。これからは夕飯待たなくて良いから。先食って。」

「お腹は空くけど、別にそんな事気にして聞いてるんじゃないから。」

ジッ、と黒曜の瞳が、静雄の瞳を覗き込んだ。静雄は、弟のこの何もかもを見透かすように澄んだ双眸が苦手な節があり、特に後ろめたい事も無いのだが視線が泳いでしまう。
たじろいだ静雄に向かって1つ咳払いをし、言を継いだのは母親である。

「そうよ。別にそんな事言いたいんじゃなくって。何か危ない事に巻き込まれてるとかじゃないでしょうね?」

気付けば、父親も心配を滲ませた双眸で静雄を見詰めている。家族3人から一斉に視線を浴び、静雄は狼狽えた。

「だっ、から!別にそんなんじゃねぇって母さんには言ったろ!?」

「そうだけど…あの時詳しい事全然話してくれなかったから。」

先を促す様な母親の視線に、静雄は根負けした。
彼女が静雄の行動を気にするのは、無粋な詮索では決してなく、息子を案じる親としての気遣いからだと分かっているからだ。
出来れば、両親には黙っていたかった、と、心の内で溜息を吐き、しかし口からは素直に「勉強、してんだよ。」、と出した。

「勉強?静雄が?」

「…んだよ、どうせ似合わねぇよ。」

心底驚いたような顔をされ、静雄はばつが悪い。こう言う反応を返されるだろうから、言いたくなかったのだ。
数瞬ポカリと開けたままであった口と思考を開始させたのは、静雄の斜め左でご飯茶椀を片手に持っている母親だ。

「まぁ、正直に言えばそうね。でも…1人で?良く集中力持つじゃない。」

それでなくとも、近頃の静雄は机に向かって勉強しているのである。どう言う心境の変化なのかと、母親は内心首を傾げた。勿論、嬉しい変化である事は確かなのだが。
静雄は小さく首を横に振ると、母親の言葉を否定した。

「友達とか?」

「違う。……母さんは知ってると思うけど、学習会に来てくれるボランティアの大学生が、勉強教えてくれんだよ。」

「じゃあ、兄さん、家庭教師して貰ってるって事?」

幽の問いに、首を縦に振り肯定する。
脳裏に帝人の顔と、本日の学習内容が蘇り、食事が終わったら復習しなければならない、そう考えた所で、静雄は母親に名前を呼ばれた。

「待ちなさい、それって、静雄、お金払ってる?」

「いや…お願いしたら、OKしてくれたから、普通にボランティアの延長で。」

「その人だって御家族がいらっしゃるでしょう?予定とか…」

「その、1人暮らしだって言ってたけど…」

次第に形相が変化していく母親に恐れをなし、静雄の言葉尻が小さくなっていく。
考えてみれば、それまで帝人の善意に甘えて勉強を見て貰っていたが、帝人はこれを無償でやってくれていたのである。今迄の時間を考えると、時給にしたらそれなりの額になるのではないだろうか。
静雄の思考同様、母親もそれに気付いたのか、顔を険しくすると、椀をテーブルに叩き付けると、力強く宣言した。

「静雄、今度その方をうちにお連れしなさい!」

「はぁ!?」

「無償の善意でやって頂いてる方なんでしょ。場所と食事位提供しなきゃ罰が当たるわ!!良いですか、これは母親命令です。分かったら返事!!!」

「っ、はっ、はい!!」

思わず背筋を伸ばして返事をした静雄を満足そうに見遣る母親、を目に映し、平和島家家長は、何時の世も強いのは女性であり母親であるのだと、しみじみと思いながら味噌汁を啜ったのであった。