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お伽の国へようこそ

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1章



小鳥たちが歌い、木々が笑い、動物たちがはしゃぎ回る。
そこはおとぎの国、幻の国。入ることは簡単でも、出ることは?
そこを支配している王様の許しがなければ出ることなど叶わない。
さぁ?どうなさいますか?迷い人さん。

「んっ・・・っ、ここ、はっ」

がっと身体を起こして当たりを見渡せど、見たこともない風景。
それというもの、どういうわけか帝人は森の中にいた。
ありえない。こんな自然な森が池袋にあるわけがないし、第一どうやって己はここに来たのだろうか。

「落ち着け落ち着け僕・・・!そう、これは夢だ!夢だよね!」

あはははと笑いながら帝人はもう一度身体を横にした。瞳を硬く結ぶ。

(夢なら覚めて今すぐ覚めてっ!)

ピピピッ、と小鳥のさえずりが耳に心地良い。柔らかい風が吹き、帝人の頬を撫でていく。
ぷるぷると帝人は震えだし、また身体を起こした。

「んなわけあるかー!」

帝人があり得ない!と叫ぶのと同時にパンパンと誰かが拍手をする音が響く。

「ふぇ?」

驚きで帝人は方を振るわせ、音のした方を振り向いた。
逆光で最初顔が隠れていたため誰だか解らなかった。帝人は目をこらしてこちらに歩いてくる人物を見つめる。

「こんな所で何をしていらっしゃるのです?お嬢さん」

現れたのは男。手袋を着けた手を座り込んでいる帝人に差し出した。

「はい?」

漸く顔が見えたと思ったら、帝人はその人物を見て身体が硬直していくのが解った。
柔和に笑い、馬を引いてこちらに手を差し伸べてくる人間。
ありえない、ありえない、と先程とは違った『ありえない』が帝人の心の中に溢れてくる。
なぜなら、その男の顔がとても知り合いに似ていたから。
否、似ているというレベルではない。瓜二つ、そっくりだった。良く聞けば声もそっくり。
帝人が驚きで動かないでいると、男は何かを考えているのか小首を傾げた。

「どうかなさいましたか?あぁ、足をくじいておられるのですか」

「え?」

男はそういうと軽々と帝人の身体を持ち上げ、馬へと乗せてしまった。
しかもその男は帝人の後ろへと跨り、馬を歩き出させてしまう。

「ちょっ!?なっ」

「おっと暴れないで、お嬢さん。貴女のような羽の生えた妖精のように軽い女性でも暴れては馬が驚いてしまいます」

「っ」

聞き慣れない甘ったるい台詞に帝人は悪寒を走らせ、後ろでニコニコ笑っている男を見上げた。

「えっと、あのー・・・臨也さん?」

「はい?イザヤ?・・・お嬢さん、申し訳ありませんが誰かと勘違いしておられるのでは?」

「ですよねー・・・。で?済みませんがどちら様でしょう?」

「ふふ、自己紹介とは本来己のことから語る物だと思うのですが。
 まぁ、貴女のような可愛らしいお方に尋ねていただけるのであるならば、いくらでも応えましょう」

男はまた笑うとそっと帝人の耳に唇を寄せ、吐息を零すかのように囁いた。

「日々也、と申します」

「っ///」

ぞくり、とまた悪寒が帝人を駆けめぐる。帝人は寒くもないのに鳥肌が立ち、腕をこすり合わせた。

(なんなのこの人!?)

ありえない、と何度目かの台詞を心の中で突っ込んだ後、日々也はで?と呟いた。

「で?貴女のお名前は?」

「え、えっと・・・」

「私は貴女の要求に応えました。今度は貴女の番では?お嬢さん」

帝人は生唾を飲み込んだ。何故だろう、先程まで浮かべていた笑みとは少し違う。とても冷たい笑みを浮かべていた。
帝人の本能が危険を告げる。しぶしぶ帝人は己の名前を教えることにした。ここで言わないのは得策ではない。

「りゅ、竜ヶ峰帝人です・・・」

日々也はぱっと花を咲かせたように笑うと、とても楽しそうによろしくお願いしますね、と告げた。

「はい?」

「これからしばらくはきっと貴女ここに滞在することになりましょうから」

「はいぃぃ!?」

「ふふ、そんな驚いた顔も愛おしいですよ帝人姫」

「ぶっひ、姫って!?」

「女性に対して姫と付けるのは当たり前です。特にこの世界では、ね」

日々也は楽しそうに、嬉しそうに笑う。帝人の顔は対してあり得ない物を見るかのような視線を日比也に向けていた。
帝人は非日常が好きだ。愛していると言っても過言ではない。
けれど、しかし。
こんな非日常を誰が思い浮かべるであろう?
帝人はこれから自分に起るであろうありえない非日常に軽い眩暈を覚えた。

作品名:お伽の国へようこそ 作家名:霜月(しー)