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すずきたなか
すずきたなか
novelistID. 3201
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AS YOU LIKE IT!

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部屋の中はさぞかしがらん、としているんだろうと思っていたが、予想以上にものでごちゃごちゃしていた。俺達が持ってきたものが膨らんだスポーツバッグだけなのとは正反対だ。
前に住んでいた住人は夜逃げでもしたのか、生活の痕跡が丸々残っていた。家具や電化製品だけではなく、棚の中身や壁に貼られているポスターまでそのままだった。さすがにゴミなどは捨てられているが、このままだと冷蔵庫の中からカチカチの冷凍肉とかが出てきてもおかしくない。
「わー、見てよこのソファー。どうしたらここまで真っ赤になんのかしら、こんなの初めて見た」
玄関で凍り付いた時間がようやく解け、俺とマカはおずおずと室内に入る。確かに、随分派手な内装だった。床はピンクのタイル、ダイニングには丸テーブル、蓄音機らしきものまでリビングに置かれている。何だここは、モデルルームでもやっていたのか。
「これなら、消耗品買うだけで済みそうだね」
「全部前の奴の使い古しってのはちょっと気分悪いけどな」
食器棚を開けると、埃を被った皿やコップがしまわれていた。デザインが随分古い。普段使いのものは新しい住居に持っていって、残りは俺達に押し付けたんだろう。学生寮とはいえ、あまり嬉しくないプレゼントだった。
マカはそこらじゅうの棚を開けたり閉めたりしていた。さすがに冷蔵庫の中身は空っぽだった。台所の上の方にいくつか未開封の調味料がしまわれていたが、何に使うのか分からないものの上に(どうやら輸入品らしい)賞味期限が切れていた。入居して一日目は、部屋の掃除から始まることになりそうだ。
ソウル、と呼ばれたので振り向く。パートナーを組んでからそう何日もたっていないが、マカは当たり前のような親しさで俺を扱うので、緊張とか居心地の悪さをすっ飛ばして別の感情が生まれそうだった。反抗期のきょうだいみたいな、そんな気持ちだ。
「どっちが自分の部屋か決めようよ」
「どっちでもいいよ」
「どっちでもいいはなし。掃除も含めてるんだから早く来るの」
マカは癖なのか、眉間にシワを寄せて荷物を持ち直した。仕方なく俺も、リビングの奥の方の部屋へ移動する。
こじんまりとした部屋は、リビングとは違って青いタイルが敷かれ、ここだけ何も家具がなかった。唯一あるのは壁に貼られたポスターくらいで、その趣味の悪さからして、リビングに貼ってあったものと同じだ。ここの部屋の持ち主が貼ったんだろうが、剥がしてから出ていけばいいのに。
ぺら、とポスターをめくってみるが、後ろに人骨が塗り込めてあったとかそういうことはなかった。周りと比べて壁紙の汚れもないし、何の理由もなく貼って、何の理由もなく剥がさなかったんだろう。
「わー、可哀想に。ここの部屋の人はベッド買うまで寝られないわね」
「他人事だな」
「他人事よ」
どうやらマカはこの部屋を俺に押し付けるつもりのようだった。荷物を持ったままもうひとつの部屋へ移動して、
「こっちは揃ってる。じゃー、部屋掃除し終わったら言ってねー」
とだけ叫んで、ドアを閉じてしまった。俺は肩をすくめて荷物を直接床に置く。掃除も何も、床の拭き掃除でもしろってのかよ。




何もする気が起きないので、ダイニングに置かれたいかにもそれらしい丸テーブルの前に座る。前に住んでいた奴の趣味なんて全く分からないが、丸々置いていくということは、もしかしたらこの寮に備え付けの家具なのかもしれない。だとしたら死武専の趣味も知れない。
マカがこもっている部屋からガタガタ何かと格闘する音がする。あの体格ではひとりで全部掃除なんて無理に違いないのに、頑張るものである。かといって俺も他人のことは言えない身長だが、自分から口にするのは何となく屈辱だった。
台所の棚をあさって鍋やフライパンまで見付け出していると、マカがやけに元気よく部屋から出てきた。テーブルに紙を叩き付けると、俺を手招きする。
「食事当番を決めなきゃ」
はあ?と顔を歪める俺とは対称的に、マカはさらさらペンを走らせ、やけにまっすぐな線で表らしいものを作る。一週間のカレンダー。
「掃除は明日からちまちまやってくにしても、ご飯は食べなきゃやってらんないでしょ。毎日買うわけにもいかないしさ、作らないと」
俺はうんざりした。そうだ、寮とはいえここは独立している。家事やら何やらは全部自力でやらなくてはいけない。言っておくが、俺はこの年で何もかもうまくこなせる、なんて人間ではない。それどころか、家事なんてほとんどやったことがない。マカのことは知らないが、ローテーションを決めようとしているということは、多少はできるということだろうか?
「買い物は二人で行くとして、朝と夜は分けた方がいい?洗濯掃除ゴミ出しと、あとはソウルの部屋の家具をどうにかしないと……」
「お前、ほんとに俺と同い年か?年誤魔化してんじゃねえの?」
「失礼な!あんたがこどもっぽいんでしょご飯も作れないの情けない!」
「お前は全部できんのかよ」
「で、できるわよ!」
そのどもりでこいつの言っていることが口だけということ確定。お互いの家庭状況とかは全く知らないが、少なくとも今までひとり暮らしだったということはないだろう。明日からいきなり、どう生活していけばいいのか分からないとは。
マカはぐっと黙るが、一度言ったことは撤回できない性格らしく、紙をくしゃくしゃにしたりはしない。
「け、けど、明日も授業あるんだから、どうにかしないといけないのよ……そうよ……寝る前に絶対決めないと!じゃないと学校行けないんだから!」
はいはい、と俺は目をそらした。家具だけは揃っているけど、この部屋には決定的なものが欠けている。こども二人で暮らしていくという、経験。それを支えてくれる人間も、それを放り出して逃げ出す人間も、ついでに言うなら帰る場所も、ここにいるガキ二人にはありそうになかった。




もめにもめた、というわけではないが、とりあえず食事とゴミ出し洗濯の順番は決まる。もっと大人数で住んでいればこんなギチギチしたローテーションを組まなくても済むのだろうが、あいにくここは二人部屋だし、マカには俺以外の武器も、俺にはマカ以外の職人もいなかった。
とりあえず明日の朝はマカが朝食を作ることになったので(言い出しっぺの責任を取る、とか何とか)、見よう見真似で買い出しに行き、一体どう調理すればいいのか分からないものを買い込んでいる内に、辺りは真っ暗になった。今日は学校がないからいいものの、明日からは授業に出つつこれをこなさなければならない。どんな生活だよ、と俺はため息をつく。
何をしたらいいのか何も分からない。洗濯機の使い方、風呂掃除の仕方、便器がつまったらどうすればいいのか、蛍光灯が切れたらどう取り替えたらいいのか、飯の作り方、朝起きれなかったらどうするのか、授業って何をするのか、「魂を取る」ってどういうことなのか。そんなことが何にも分からなかった。分かるのはこの部屋が当分俺とマカの帰る場所になることくらいで、そんな分からない状況のまま、ろくに喋ったこともない奴と夜に向かい合っているってことくらいだった。
作品名:AS YOU LIKE IT! 作家名:すずきたなか