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すずきたなか
すずきたなか
novelistID. 3201
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AS YOU LIKE IT!

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「ぴ、ピッキング……」
「授業で習ったでしょ?」
「んなもん教える学校に通ってる記憶なんてねえわ!」
「覚えといて損はないわよ。ま、次に住む人は、ちょっと鍵が回りにくくなっちゃうだろうけど、ねっ」
最後の言葉と同時にガチャンとドアが開いた。手招きされて中に忍び込む。何て職人だ、味方でよかった、というか有能にもほどがあるだろ。
中へ入ってマカはまた鍵をかけた。完全に泥棒のそれである。間取りは全部屋共通らしく、備え付けの家具もいくらかはあった。といっても俺達の部屋にあったような派手なものではなく、学生寮にふさわしい質素なものだ。
「前に住んでた奴の顔知りてえわ」
「私の両親だけど」
「まじでっ!?」
「嘘」
マカはもくもくと辺りを物色している。こいつ、今まで親絡みの冗談なんて口にしなかったと思うが、犯罪中というシチュエーションがマカをハイにしているのだろうか?
ベッドは二つ置いてあったが、状態から見て奥の部屋から一時拝借しようという話に落ち着いた。よっこらせと年齢に合わない掛け声が同時に出て、どうにかベッドを持ち上げる。そうして歩き出そうとした瞬間、
「……じゃ、そろそろお願いします」
とかいう声がして、ぞろぞろ人が入ってくる足音がした。俺とマカがぽかん、とした顔をしている内に、ベッドをパクろうとした部屋の前に、その複数人が集合してしまう。窓から逃げ出すとかどっかに隠れるとか、そんな素敵なタイミングは見当たらない。中腰の姿勢のまま、現れた人間と目が合う。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
そして当然のごとく沈黙が訪れる。俺はどうしたらいいのか分からず、ベッドから手を離すこともできないまま、
「こ、こんちは……」
とかって白々しい挨拶をかましてしまった。
どうやら清掃業者か、もしくは引っ越し業者らしい。目の前の男三人は、数回まばたきをしたあと、ようやく口を開いた。呆れ返った口調だ。
「……君ら、何やってんの?」
「部屋を間違えました」
そして即答するマカ。俺は思わず吹き出してしまう。それはいくら何でも開き直りすぎだろう。俺以外のマカを除く全員もそう思ったようで、別の男が聞く。
「部屋に鍵かかってたけど」
「鍵がはまっちゃったんで」
「中入って気付かなかったの?」
「帰るとすぐ鍵を閉める癖がありまして」
「ベッド移動させてどうすんの?」
「この子の帽子が落ちたので、どかして拾ってるんです」
ほら、とマカは俺の足下を指した。俺もつられて下を向く。確かに、どうやらさっき腰をかがめた時に落としたらしい帽子が床に転がっていた。髪の反発に耐えられなかったらしい。
「帽子も見付かったし、帰ろっか、ソウル」
「あ、ああ……」
何という図太い神経。俺はすごすごとマカのあとについていくしか方法がない。とにかく、ベッドの調達は失敗に終わったものの、とりあえずは何もなく帰れそうだ、
「君ら、待った」
と思ったのも束の間、後ろからの呼び掛けに、俺とマカは二人揃って肩を跳ね上がらせてしまう。叫び出さなかったのが不思議なくらい、大袈裟にビビってしまっていた。ぎくしゃくと振り返る。
「もしかして、隣の部屋に住んでる子?」
完全に顔が割れていた。だから変装なんて無意味だと思ったのに。
ぎくぎくと返事を先延ばしにする俺とは逆に、マカはもう隠せないと思ったらしく、潔く男らしく格好よく名乗った。
「隣に住んでいるアルバーンですが、何か」
「おやまあ、それは都合がいい。ついでだからドア開けといてくれないかな」
「…………はい?」
マカは怪訝な顔のまま驚いて固まるという不思議な表情を作ってみせた。業者らしき男はああと頷いて、少し動かされて放置されたベッドを指差す。
「隣の部屋、新しく人が入るのを忘れていて家具が揃ってなかったって話なんだ。だからね、隣からこう、ちょっと動かして間に合わせるようにって話がね、事務の方から来てね」
「何と……」
「まあ……」
口を開けるこども二人の横をさっさと通りすぎて、ベッドが部屋を抜けていく。俺はそれをぼうっと見送っていたが、隣から聞こえた深い深いため息で意識が戻った。見ると、眼鏡を外したマカが、それは不快そうな顔で俺を睨んでいた。
「おい、そこの武器」
「俺は武器じゃない、人間だ」
「一発殴らせろ」
返事をする暇がなかった。




というわけで俺の部屋は埋まったわけだが、いまだにあの妙なポスターは貼ったままだった。あとから来た猫が気に入ってしまったのもあるし、実際に剥がしてみたのだが、先をまくっただけでは気付かない、明らかに不自然な色の違いを発見したので、見なかったことにして丁寧に戻したのだった。角部屋だしな、この部屋。
何だかんだで寮に住み始めの頃はごたごたが多かった気もするが、喉元すぎれば何とやら、なのか、単に慣れただけなのか、今ではそんなトラブルも起こらない。授業を終えたからといって床で寝ることもないし、どっかから家具を盗みに行くこともない。面倒事は魂云々だけで十分だった。
「さて」
マカはソファーに腰かけた状態で、思い付いたように喋った。思い付きで行動してばっかだな、こいつ。
「家具を変えようか」
「好きにやっちゃって下さい」
作品名:AS YOU LIKE IT! 作家名:すずきたなか