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二人の男とある沈みゆく彼女の話と猫一匹

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 男を囲む集団の中にひとり、老齢の航海士が混ざっていた。機会に恵まれず出世はしなかったが、豊かな経験と感性を持つ、優れた海の男である。ゆえに、彼は男の身に起きたことを瞬時に察した。なるほど、愛する者がいたのだろう、と。そしてその不幸を真に悼んだ。彼の恋人は、渦の底にいる可能性が極めて高い。
 おそらくは、火夫役であろう。粗末なシャツの下では隆々たる筋肉が湧いており、浅黒い皮膚は熱気に焼けている。精悍ではあるがどこか野生めいた顔立ちもなんとなくそれらしい。
「兄さん、難しいだろうが、早めに希望を見つけることだ。何を失おうと、あんたは生きている。それを忘れちゃならねえよ」
 表は明るく晴れている。昨夜の悲劇が嘘のようだが、あの太陽は逆にまざまざとスカーレット号の悲劇を照らしていた。まったく、嘘のような地獄であった。
 老齢の航海士は、ベッドの上で男が静かに目を閉じるのを見つめて胸を痛めた。この男は善人であろう。彼は自分自身のみでなくもうひとつの命をも助けた。金髪の美しい男である。彼の恋人は海の底か、あるいは既にボートに乗りはるか彼方へ去ったかもしれないが、その事実は男を救うに違いない。もう少ししたら教えてやろう。金髪の男も、そろそろ目覚めるころだろうか。
 ネズミ捕り用の猫がニャアと鳴いている。まったくいつも、知ったようにふるまうのだ。猫というのは不思議なものである。