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【サンプル】 pronto? 【臨波】

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ある日突然真夜中に臨也から電話がかかってくるようになって――。電話にまつわる、臨也と波江の二人の一年間のお話。臨波です。


以下サンプル(抜粋 ページはつながっていません)


 真夜中に電話がかかって来るようになったのはいつ頃だったろうか。気付けば深夜に電話をするようになっていた。
 それは決まって向こうからかかってくる。決まった時間などは特にない。たとえば私がホテルについてからすぐだったり、今日みたいに日付をこえていたり……いつだってそれらは向こうの都合でかかってきた。最初は取り合うのが面倒で何度か無視したこともあったが(勿論、実際気付かないことだってあったけれど)今では仕方なしにそれを取るようにしてしまっている。もっともそれは今日みたいに電話の呼び付ける喧しさから解放されたいがため、という理由が大半だったけれど。
 私だってそれなりに対応してやっている。だというのに、こうやって毎度毎度電話をかけてくるくせに、大抵は用事などないのだ。全く何がしたいのか意味がわからない上に無駄なことだとしか思えない。だから私はこれはただのこの男の気まぐれな暇つぶしなのだと思う事にして、そこから先を考えることを放棄した。
 積み重ね降り積もればなにもかも惰性をおび、日常とかす。この電話越しのやりとりはそういうものなのだろう。面白い物語なんてなにひとつ生まれることもない、ただのつまらない暇つぶしだ。少なくとも私はそう思っている。
「どうせ用なんてないんでしょ。もう切ってもいいかしら」
「秋の夜長にさ、君の声が聞きたくなった……っていったら信じる?」
「他を当たってちょうだい」
 今までの中で一、二を争うくらいのくだらない言葉に私の口からは思わず溜息がこぼれてしまった。
 折原臨也は何を考えているのか、ときどきこういったくだらない冗談を口にした。それが電話越しになるとより饒舌になるような気がして、私は余計辟易せざるを得ない。
「つれないねぇ…そこはときめく場面じゃないの?」
「うるさいわね、私は眠いのよ」
 臨也は依然として電話越しにからからと笑う声が響かせるものだから、私は苛立たしげに言葉を返すことしかできなかった。
 あぁまったく、これは一体いつから始まったのだろうか。その答えを探すのはとても簡単なことであるはずなのに、あまりに回を重ねたせいかもはや定かではなかった。春だったのか夏だったのか、それともつい最近の時分だったのか――やはり、始まりが思い当たらなかった。まさにこれこそ惰性であろうと改めて思え、私は向こうに見えないにもかかわらず軽く眉を寄せた。

(Autunno より)