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【サンプル】 pronto? 【臨波】

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「一緒に年越ししようよ」
 という男の余計なものをそぎ落とした明瞭な声を耳が拾っていた。先程の言葉は聞き間違いではないらしい。
 なぜそんな話になるのか、私が聞き流していた中にその答えがあるのかもしれないが今更思いだすこともできないし、その理由など問う気もない。
 ただ、ほんの数時間前の事だけは思いだせた。そういえば、今日私が事務所を後にするとき、臨也は珍しく玄関まで見送っていたような気がした。その際は「じゃあね、よいお年を」なんて厭味ったらしく笑みを浮かべて引き留めるようなしぐさすら見せなかったくせに、今更どういう了見なのだろうか。
 私はずっと立ちっぱなしであったことに今更のように気付き、ベットに腰かけると、ぴんと張った綺麗なシーツの上に歪な皺を刻みながら言葉を選んだ。
「あなたはこの期に及んで私に仕事をさせたいのかしら」
「仕事?なんだってそんな話になるのさ」
 向こうは何を言ってるんだという言葉を返してきた。きっと電話の向こうでもそんな顔をしているのだろう。普段からうすら笑いばかり浮かべているあの男にとってはいい気味だ。
 私は笑みをこぼしたい心地を抑えて、変わらず淡々とした声で疑問に答えを呈す。
「上司のお守り――一番厄介で面倒で骨のおれる、私のなかでもっとも疎ましい仕事よ」
「なるほど!それは大仕事だろうね」
 臨也は厭味ったらしくそういうと、いつもみたいにからからと笑っていた。


(inverno より)


・基本的に波江視点で話が進みます。
・A6横閉じ/表紙2色刷り・オフセット/本文クラフト/50P です。

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