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前世を言ってもキリが無いよ

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ふぁり、と広がる様子が眼に映るような音だった。
柔らかな弦楽器の音が、微かに届く距離。
それでも、その音の清冽さはわかってしまった。
曲の終わり、柔らかく響く音に持っていかれる意識。
神々しい音と評価されているのは知っていたが、それでも此処までその言葉に当て嵌まるものとは思いもしなかった。
かつて太刀筋を見たときと、抱く心地が同じとは。
こんな、遠く離れた位置で聞いているだけだというのに。

かすがを見つけたのは本当に偶然だった。

「いや猿飛くん、まずいわ、これ。」
「何がでしょー?」
「君、ポリシーとして部活に入んないって言ってたじゃない?」
「はあ、まあ。団体行動って落ち着かないんで。できるだけ一人で居たいですねえ。」
一年生の、夏休み前の面談だった。
担任教師がボールペンの後ろで頭を掻いている。
「うん、別に友達居ないわけじゃないしさ、ちょっとちょっかい出されても見事に返り討ちにしてるからイジメにもならないし、かといって暴力事件にも発展しないように上手いことかわす?っていうか取引だよね、主な対応って?」
「ちょ、何で知ってるんですか?!」
「え、だって担任だし。」
あっけらかんと言った担任はこっちの動揺を無視して続ける。
「可愛げ無いよねーとかはちょっと思うけど、まあそれが君だから仕方ないかなとは思ってんのよ、他の子見習えとか思うけど。生徒に頼られる教師っていうオイシイ位置、楽しめないのつまんないなーとか思うけど。」
「・・・先生?何が言いたいのかわかんないんですけど。ていうか、本音言い過ぎ。」
「だってさー、政子ちゃんとかチカちゃんとか、こう来たかーって可愛い感じなのに、君、変わんないしさー。」
「伊達ちゃんは下の名前で呼ばれるの凄い嫌ってるんで、気をつけたほうがいいですよ。つーか、今ソレ関係ないよね?!風来坊!!」
あ、懐かしー、などとのたまって担任の前田は、教師の中でも睥睨される長髪をワシワシと掻き回し笑った。
「あ、うん、ごめん、卒業までは昔の話無しって最初に言ったの俺だった。」
そう、入学式が終わってすぐ。挨拶をしてクラスを見回し、少し苦笑した彼は、昔の知り合いも何人か居るみたいだけど卒業まではナシで行くから、と宣言した。
「で、何がまずいんですか?」
一つ息を吐いて聞いた。
蝉の鳴く声が耳に痛いほど、沈黙が一拍あった。
「あー。俺が迂闊だったんだけどね?だからごめんね?」
「・・・何がですか?」
「青筋立てないでよ。あのね、部活に入んないと、評価できないところってのがあってさ。主に学校に貢献したかどうかっていう辺りの。」
「・・・それって、所謂ところの、内申点とか?」
「うん、そんな感じの。」
ザーッと血の気が引いた。
え、ソレって結構中学じゃ評価点高かったりするんですけど。
「ウチの学校、試験結果が評価の殆どだからあんまり気にしてなかったんだけど、まったく無いって言うのもお話にならなくってさ。特に猿飛くん、試験結果は平均取れれば良いかなって程度でしょ?」
「伊達ちゃんとか、部活やって無くても点数良かったですもんね。」
「うん、もう一つ言えば級長やってるのが大きい。君、委員会活動もやってないでしょ?」
あー、と俺様は仰のいた。
「まあ、二学期から委員会とか入っとくんだね。部活よりは団体行動しなくて済むし。あと、ボランティア活動とか文化祭とか体育大会とかで何かやっておくとお得。目立つ役職は一年生じゃ貰えないから、グループリーダーとか。情報集めるの得意でしょ?多分、活躍できるよ。で、恋とか芽生えちゃったり!」
「そこは要らないんで。ていうか、相変わらずだよね。」
「ちぇー、つまんないのー。本気で恋しちゃいなよ?人生変わるよ?」
「もう変わった後なんで。」
「・・・それもそっか。」
「で?」
「で、って?」
「さっきの口振りだと、マズイのは今であってこれからじゃないっぽかったんですけど。」
「あ、そっか本題!」
「せんせーしっかりー。」
「あーもー可愛くないなー。で、一学期の評点が無いってのは、マズイわけ。そこで考えました。悪いけど、夏休み一日潰してくれない?」
「はあ?!」
「学校交流会があるんだよ。生徒同士がお互いの学校を良く知ろう、みたいな共同勉強会が。社会貢献の一環扱いだけどね。議題が確か、『現在の行政サービスについて』だったかな?長所と短所と改善策とか、学生の立場で適当にまとめて意見書にして、教育委員会の偉い人にレポート提出するの。」
「二学期に入るんじゃないんですか、その評価・・・。」
「うーん、これが可笑しいことに一学期の評点なんだな。一学期の評価が終わった後なのに、二学期の始業式より前だから夏休みって一学期の扱いなんだよ。でも問題を起こしたら二学期の評点から差っ引く。めちゃくちゃだよねえ。でもこの場合は有難い。とりあえず参加するって言ってくれたら、一学期の評点に加えられるからさ。」
「じゃ、参加しまーす。」
「はい、了解~。ていうわけで、猿飛くんの問題終了ー。詳しい日程なんかは明日プリント渡すから。絶対参加してね。欠席したら評点2倍でマイナスだから。」
「うわー、怖ーい。」
「それくらいじゃないとフェアじゃないでしょ、他の子たちに。これだってギリギリなんだから。君と違って生徒とは俺、取引しないの。すっごい葛藤だけどね。」
「なんで?」
「取引しちゃったらキリが無いでしょ?特に猿飛君なんて情報の塊だからいっつも誘惑と戦ってる。聞いたら事前に防げる問題とか、助けられる生徒とか居るんだろうな、って思ってるから。」
「あー。確かにそれ、取引材料に出来るくらいありますねえ。」
「やっぱりー!」
「まあ、大問題になりそうなのとかがあれば、それとなーく耳に入るようにしますよ。」
「絶対だよ?!期待してるからね!!」
「あんたに期待されてもねえ。」
「俺、今、担任なのにー!!もういい、次の子呼んできて!!」
「はいは~い。」

と、いう経過を経て参加した学校交流会に、かすがは居た。

一目でわかった。
何しろ、あの目立つ容姿がそのまんまだったからだ。
まあ、それを言ったら俺様もそうだとかすがに睨まれた。
お互い一目で、あ、と認識して。
それでかすがも電波な記憶持ちだとわかってしまった。
「久しぶり~」と声を掛ければ、「初めましてと取り繕うくらいしろ!」と怒られた。
かすがは、議題に惹かれて参加したのだと言った。
「音楽に関する公共サービスが少ない!市民のための音楽会や演奏会の数が少ないし、援助も足りない!」と息巻いて、それを上申するために参加していた。
理由はとても、とっても簡単だった。
通っているヴァイオリンの先生が発表する場を多く設けたいが為のものだった。
今生でもかすがは、軍神さんのためにできることを何でもするという姿勢だった。
かすがのヴァイオリンの先生は、ソリストのヴァイオリニスト、をやってる上杉謙信だった。
問いたださずとも、先生を語る恍惚とした表情が全てを教えてくれていた。

そんな、かすがからメルアドを強奪した夏の終りだった。

隣県で上杉謙信が演奏をするのだと浮かれたメールが届いた。
野外音楽堂での市民のための演奏会。