言葉で魅せてよベイビー
この出来事から、健二がやっかみ混じりの嘲笑を投げつけられることは、ほぼ無くなったようだ。お互いがベタ惚れの二人に、ちょっかいを出すなんてアホらしいとようやく周囲も気づいたのだろう。健二は健二で、あの泣き言を部室でわめく回数が二日に一度から五日に一度になった。無くならないことに頭痛を覚えるものの、減ったという事実に、前進と言ってやらなくも無い。佐久間は頷きつつ、さてここで結びの言葉を。
めでたしめでたし。
で、なぜ終わらないんだ、自分だけ。
「健二くんのこと好きな女の子が、いっぱい出てきちゃったらどうしよう……」
「それ世間一般では欲目って言うんですよ夏希先輩……」
それとも盲目?余計な心配と言った方がいいだろうか。佐久間は何とかため息をこらえて目の前の少女を見やる。古ぼけた椅子に座った夏希は、どこまでも真剣な顔をしていて、これはまた長くなりそうだ、と心の片隅で馴染み深くなった覚悟を決めた。
あれ以来、夏希は佐久間を相談相手と定めてしまったらしく、物理部に顔を出しては健二についての悩みを口にしていく。もちろん、健二のいないときを見計らってやって来るのだが。
「つーか、それ健二に言ってやったらどうっすかね……?」
つい本音を漏らした佐久間に、夏希は瞬間湯沸かし器のごとく沸騰する。
「言えないよ、こんなこと!」
真っ赤な頬を押さえつつ、夏希が立ち上がる。まぁまぁ、と宥めながら、佐久間はちょっと泣きそうだ。思わず遠い目で天を仰いでしまう。ジーザス。
あぁ、神様。惚気は二人っきりでやれって、どっかで定めちゃくれないだろうか。
甘酸っぱい言葉なんて、独りものには荷が重過ぎる。
作品名:言葉で魅せてよベイビー 作家名:フミ