入隊理由
オレが作られたころはよォ、もう、サイバトロンと和平が成立しちまっててよ。
パ、パワーバランスっていうの?
とにかく、盗るな、脅すな、殺すな、って言われてよォ、つまんねえ時代だったよ。
オレぁ、まっぴらだった。
オレに命令できんのは、オレだけだ。
世界征服とかよォ、新帝国の建設とかよォ、そんなンは全然キョーミなかったけど、オレにごちゃごちゃ言うヤツは、片っ端からやっつけてやったんだよ。
いつの間にか、オレの前を歩くヤツは、いなくなった。
だからオレは自由に、脅し、盗り、殺した。
もっとも、オレの邪魔さえしなきゃ、わざわざ殺すこともなかったけどな。
信じらんねえ、って?
バーカ、オレのミサイルは、強力なんだよ!
パワーで敵わねえようなヤツには、毒を容赦なく叩き込んでやったしな。
毒?あれだ、機械の体をマヒさせる、ウィルスのことよ。
自分で言うのもなんだけど、オレぁ、その手の扱いは、一級だったんだよ。
とにかく、オレは、好き放題やってたし、それで、けっこう気分もよかった。
おべっか使うヤツもいたけど、てんで信用ならなかった。好きにもなれなかった。
だっからよ、いつも、一人で歩いてたんだ。それで、満足だった。
ああ、そうだよ。
いきなり現れて、まっすぐ、アタマのオレを取りにきたんだ。
おっそろしく頭が切れるヤツだと思った。
ミサイルも毒も、一発も当たんなかった。
オレぁ、全てのプライドを踏みにじられて、初めて、『死の恐怖』ってやつにおびえることになったのさ。
頭にレーザー砲を突きつけられて、オレは、面白いほど笑ってる膝を、じっと見つめてた。
体中の神経パルスが狂っちまって、声さえ、上手く出なかった。
それでも、なんとか、一言、呟いた。
それが、オレの、最後のプライドだった。
「……殺せ」
ちょ、ちょっと待て、なんでそんなに笑うんだよ!
似合わねーって?
ンなことねーよ、テメーら、オレを何だと思ってンだよ?!ったく。
この話は続きがあンだからよ、聞けよ!
「お前、いつ作られた?」
世間話でもしてるような、口調だった。
オレは、細心の注意を払って、答えた。
「製造番号(シリアルナンバー)は、300054-3798だ」
そして、続けた。
「……はやく、殺れ。そんなこと聞いても、意味ねーだろ」
本当は、オレの緊張感が続かないからだった。
このまま続けば、足にすがりついて、命乞いをはじめそうだった。
でも、それだけは、ぜってー、避けたかった。
「ふーん、和平締結後の生まれか……面白い」
オレの思惑とは関係なく、ヤツはニヤついた。
そして、言った。
「私は今、兵を募集している。活きのいい若者は、大歓迎だ。どうだ?」
オレは、自分の耳を疑った。
オレを、部下にする?
オレを、許す?
信じらんねー。
楯突いた者は、テッテー的に痛めつけるのが、当たり前だ。
自分に恨みを持つ者を近くに置くなんて、自殺行為だ。
オレは、我を忘れて、叫んだ。
「バーカ、オレがテメーに従うわけねーだろ?オレをテメーの近くに置いてみろ、隙をみて、ボッコボコにしてやんからなァ!オラア!」
……忘れらんねえ。
あン時の、メガトロン様の顔。
オレの言葉を聞いたメガトロン様は、本当に、嬉しそうに、……笑ったんだ。
「この状況で、そんなセリフが吐けるとは、いーい度胸してるじゃないか」
声までが、弾んでいた。
銃口の固い感触がこめかみに触れて、一瞬、死神の鎌を忘れていたオレは、再びふるえ上がった。
「好きにして構わんよ。寝込みだろうが何だろうが、いつでもかかってこい。……ただし、やる時にはまあ、万全を期することだな。失敗すれば、反逆者として、きっつーいお仕置きをプレゼントだ」
メガトロン様は、オレから、銃口を、そらした。
「デストロンたるもの、それくらいの気概がないとイカンよ。最近の若者は、軟弱でなー。キサマは、なかなか、見所があるようだ」
オレは、呆然と、離れていくレーザー砲を、見ていた。
オレを?
助ける?
マジで?
……どうも、ホントーらしい。
そう実感した時、オレぁ、思った。
器が違いすぎる、ってな。
自分が世界で一番強くてだから一人でなんでもやってやんぜ!ってツッパってたけど、オレは、結局、ただ他人が怖いだけだったんじゃねーかよ、って。
オレぁよ、マジ、世界征服とか、宇宙の支配とか、キョーミねーけど。
もし誰かがこの世界を支配して動かすってんならよォ、それは、オレでもない、誰でもない、メガトロン様しかいねー!って。
メガトロン様じゃねーと、このオレが、許さねー、って。
だから、今、ここにいンだよ。
「な~んだ、結局、メガトロンにボコボコにされて、部下になったってことだぶ~ん」
「ァア?!テメエ、オレの話、全然聞いてねーじゃねーか!」
「聞いてたザンスよ。でも、要約すると、そういうことザンショ?」
「ちっっげェーよ!テメーらが聞きてーってゆーから話してやったのに。信じらんねー!」
「その点、ボクちゃんなんか、頼まれて入隊したんだぶ~ん。ワスピーター様、入って下さいって、メガトロンが頭を下げてきたんだぶ~ん」
「アンタも見え透いたウソつくんじゃないザンスよ、ワスピーター。バッラバラに分解されて、顔だけで『なんでもやりますから、許して下さい~』って泣きついてたのをアタシ、ちゃーんと見てたザンス」
「へ~んだ、テラザウラーだって、メガトロンの前では、おべっかばっかり言ってるぶ~ん。普段は悪口ばっかりなのに、情けないぶ~ん」
「……あーあ、テメーらに話した、オレが馬鹿だったよ」