マリーのお茶会
ごくりと自分の紅茶を飲み干して波江は一息に言った。その表情は僅かに笑んでいる。帝人はすみません、と申し訳なさそうに謝って「よろしくお願いします」と頭を下げた。
「こちらこそ宜しく、帝人」
波江は机に肘をついたまま、艶やかに笑んでみせたのだった。
「やあ、波江。おつかい御苦労」
仕事場でへらへら笑っている上司を一目見た瞬間、波江は言いようのない優越感を感じて臨也のデスクに腰掛けた。
「帝人君はあのメッセージで俺を追いかけてくれるだろうね」
夢見がちな瞳で確信めいた言葉を口にする臨也がおかしくて波江は椅子に腰かけている臨也を睥睨する。なんだ、こいつ、ただ自分が愛されているか不安になっていただけなんじゃない。観察対象という言葉も別れ話もただのブラフ。一皮剥けばそこらの人間と変わらない。波江はたまらなくおかしくなった。
「これ、何かしら」
ひらりと見せびらかすように手に持ったのは白い紙。波江はそれを持って唇を笑みの形に歪めた。
『君に飽きた俺を追いかけて、振り向かせてみてよ。君が俺を追ってこなければ、その時は素直に諦める。忘れるさ。でももし君がまだ俺のことを好きなら、その時は俺を追ってきなよ。待ってるから』
波江はそう書かれた白いカードを握りつぶした。それは帝人に渡された白いカードの続きであり、波江が切り取った部分でもあった。
「残念ね、アンタの思い通りになんかさせてやらないわ」
軽く声をあげて波江は笑う。臨也は嫌な予感に波江の顔を見上げた。
「波江、おまえまさか」
「私がアンタの手伝いなんてすると思うの」
机に腰掛けて波江は臨也を見下ろす。隙を見せた者が悪いのだと言わんばかりで、そこに罪悪感は欠片もない。元々波江は愛のためなら非合法なこともやってのける狂愛の持ち主だ。
「悪いけど、掻っ攫わせてもらうわ」
「やってみろよ女狐が」