思想に微睡む5つの言葉 遙か3
02 何ができるわけでもないが、何もできないわけじゃない。
無力だと思い知った。
運命を変えたつもりでいた。
いや、実際には変わっていたが、再び運命は過酷なものを望美に見せる。
虚無感と絶望が、望美の涙となって落ちた。
もう変えられないのではないだろうか。
どこで間違えたのだろうか。
辿り着いた運命に、結局、何もできなかった。
そう思う望美はうずくまり、ただ涙するしかなかった。
ふと、首から下げていた逆鱗が目に映る。
「私には……」
逆鱗がある。
これがあれば、また運命を遡ることができるのだ。
誰にもできない。
白龍の神子として、課せられたもの。
「天から舞い降りた白龍の神子が、京を救ったんですよ」
弁慶が語った白龍の神子の伝説。
望美は昔いたという白龍の神子とは全く違う。
京を救うこともしない、白龍が今ここにいる現在と昔では全く違う。
しかし、これが自分なのだと決意する。
きっと昔も今も変わらないものがある。
それは、たった一人の命も救えない神子は神子ではない。
望美流の白龍の神子とは、一人の命を救うこと。
小さくてもいい。
何もできない訳じゃない。
剣も習った。馬にも乗れる。
以前の自分とは違う。
『初めて』来た時のように、何もできない訳じゃない。
きっと何かできることがあるはず。
望美は立ち上がり涙を拭く。
何度涙を流そうとも、きっと変えてみせる。
逆鱗がある限り、運命を切り開いていくだけ。
作品名:思想に微睡む5つの言葉 遙か3 作家名:川原悠貴