ガーベラを彼に
◇ ◆ ◇
夜、冷たい風が吹く中、一人相手を待つ
身を切るような空気に体を縮めるが、そんな事は気にも留めずただひたすら彼を待つだけだった
やがて、「お疲れ様でしたー」と扉から出てくるタクトに「お疲れ」と、手を上げ迎えると驚いたように目を見開き、
「スガタ…!?何やってんだ…ッ そんな薄着で…!」
慌てて近付いてきては巻いてあったマフラーをスガタの首にぐるぐると巻くタクト
「ああもう、こんなに冷たくなって」
その際、触れた服が冷たかったのだろう、「どれくらいいたんだ」と見かねた彼にカイロを渡される
(…ああ、繋いでくれないんだ…)
いつもはタクトより暖かなその手は冷たく、凍えるように寒い──心身ともに
「なあ、タクト…」
途中で言葉が途切れる
(…僕、何かしたか?)
言ってしまったが最後、彼が…光が遠くなってしまいそうで……怖い
黙って俯くスガタにタクトがどんな顔をしているのか分からない。…彼は目を瞠り、不自然に目を逸らしていた
それは心当たりがあると言っているようで、直ぐに表情を戻すと前髪をぐしゃっと掻き回しタクトは深々と息を吐く
やがては勢いよく顔を上げ、俯くスガタに突進する
「!?」
いきなり胸に飛び込んできたタクトに驚き、だがしっかりと受け止めるスガタ
ぎゅうっと背中に手を回され、隙間なく抱きつく彼に先程までに凍りつきそうだった心は温まり、小さく息をつく
(案外僕も安上がりだ、な)
抱き返し、そのふわふわな髪に顔を埋め堪能していると、
「…ごめん…」
小さくそれは耳を澄まさないと聞こえない程、微かな声で呟かれた
「理由、聞いていいかな…?」
「…もう少し、待ってほしい」
ふるふると首を振る姿に、仕方がないなあ、と苦笑を浮かべ「ごめん」と再び謝る彼に一転し、にやりと笑む
「分かった」
ほっと息を吐く相手に、ついっと顎に手をかけ上を向けさすと、
「だけど…」
離れていた分、取り戻してもらうから
と、にっこり、それはそれはにーっこりと笑いかけた
案の定、彼はぴしりと固まり、次第に口を開け閉めし顔を真っ赤に染める
だが悪いと思っているのだろう。こくり、と頬を薔薇のように染めながら僅かに頷き、肩に顔を埋めてきた
…その姿は男を誘うと分かっているのだろうか
(まったく、思い知らせないとな)
そう頭に浮かべつつも、どこまででもタクトに甘いスガタは、ぽんぽんと宥めるよう頭を撫で久しぶりにも思える心地よい熱を味わうのであった
──さて、今回で分かった事がある
周りに、僕に気付かせないくらい普通に振舞う彼の行動は…ある意味、恐怖だ
そして、それほどまでに……タクトは感情を隠すのが上手いという事
これは注意しないと。いつか手をすり抜けてどこかに行きそうだ……
(あ、ちなみにあの喫茶店のケーキはタクト君が作っているんだよー)
(え…!? タクト…)
(何だよ。似合わないのは分かって…)
(良い嫁になれるな。いつでも嫁いでいいぞ)
(って、何で!?)
(良かったねー、タクト君)
(ワコさん…!?)