ガーベラを彼に
◆ ◇ ◆
「いらっしゃいませ」
ちりん、ちりんと鈴が静かに鳴る扉をくぐり、「へえ…こんな所があったんだ」と感慨深げに中を見渡すスガタ
そこはこじんまりとした小さな喫茶店だった
豆の良い香りが漂い、落ち着いた雰囲気を醸し出す
目を細め、気に入った様子のスガタにワコは嬉しそうに席へと着くと、にっこりと笑いかけた
「いい所でしょー?偶然見つけてね、ここのケーキが美味しいの!」
「ああ、マスターの所とまた違った感じでいいな」
実にワコらしい言葉にくすっと笑みを漏らし、「失礼します」と水を置く従業員に目を向けると目を瞠る
「タ、タク、ト…?」
「注文がお決まり次第、声をおかけ下さい。……やあ」
そこには、最後は苦笑したように小さく声を出す男…タクトがいた
「タクト君ッ 今日のお勧めをお願いします!」
「はいはい。了解…じゃなくて、畏まりました。スガタは?」
「え…?あ、じゃあ、僕もワコと同じお勧めで」
「はい、了解。コーヒーは?」「…お願いする」
訳が分からず目を白黒したまま答え、去る彼の後ろ姿を見つめるとにまにま笑う彼女に顔を向ける
「…ワコ」
「そんな顔しないでよ。私も最近知ったの。ウェイター姿のタクト君」
可愛いでしょう?
何故格好いいではなく、そう言ったのか。意味を読み取り、「そうだな」と笑いかけた(やはり流石幼馴染、だ)
「お待たせしました」
と、そこへトレイを持ったタクトが現れテーブルの上に丁寧にケーキや飲み物を置いていく
「今日のお勧めは、ガトーショコラです。…スガタの方は甘さ控えめだよ」
では、ごゆっくり
そう言って離れようとする彼に、声をかけようとするが仕事中ともあって憚られる
「…タクト君、終わるのは多分夜だよ。……頑張ってね、スガタ君」
微笑を浮かべ、全てお見通しな彼女に苦く笑み「ありがとう」と小さく頷くとフォークを持ちケーキを口に運ぶ
──食べたそれは、ほろ苦く、今の気持ちを表しているようだった