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【1/9インテ】Don't goof around!【臨帝】

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*サンプルは「大人in居酒屋」と「家庭教師」のみ


1.大人in居酒屋






 本当に彼は残酷だと俺は思う。
「聞いてるの臨也!」
「聞いてる聞いてる、すっごい聞いてる」
「嘘っぽい返事するな!」
 ダンッ、と力強くテーブルに叩きつけられたビールジョッキは、勢いに負けて少しだけ中身が溢れてしまう。容赦なく広がったそれを、俺は端に避けていたおしぼりで拭った。ああ、新しいのをもらわないといけないな、これは。
 店員を呼ぼうと呼び鈴に手を伸ばせば、目の前の彼が何故か涙目全開でぎょっとした。何か泣くようなことでもあったのかと先ほどまでのやり取りを思い出すが、まったくもって心当たりがない。
「…何」
「臨也が冷たい」
「冷たくないでしょ。ちゃんと帝人に付き合ってあげてるじゃないか」
「だってだってだって!」
 そのまま机に突っ伏してしまい、彼は嗚咽を漏らしながら泣き始めた。おいおいマジかよ。
 しかし俺は慌てることなく、躊躇っていた手で呼び鈴を押す。「お待たせしました!」とマニュアル通りの笑顔を貼り付けた店員の顔が、俺たちを見て一瞬だけ引きつった。すみませんね、毎度毎度。
「ウーロン茶一つと、あとおしぼり新しいの二つもらえますか?」
「かしこまりましたー」
「ビール!中ジョッキ!」
「ちょっとお前は黙ってろ」
 伏せてしくしく泣いていたはずの彼は、注文を言う時に限って目を輝かせて(いや、目はもう真っ赤なのだけれど)(酒のせいか泣いたせいかもう全然わからない)声を張り上げる。そんな彼を無理矢理もう一度伏せさせて、俺はそそくさと戻っていく店員の背中を見送った。
「僕のビール…」
 そんな恨めしそうな目をしたって無駄なのだと思い知らせても、彼は構わずジト目で俺を見つめ続ける。
「ねえ帝人。もうそろそろ約束守ってくれてもいいんじゃないかな」
「何か約束してたっけ?」
「…ビールは三杯までにするって、この前約束しただろ?君が、『頭痛い、もう無茶な飲み方はやめる!』って宣言した時だよ」
 いや、その前からもう何度も何度も約束しているのだけれど。
 帝人は酒を大いに楽しんだ次の日、二日酔いで散々苦しんで、「もうこんなにお酒飲むなんてことはしない!約束する!だから臨也は僕を見張っててね!」なんて言うくせに、いざ居酒屋に入ればハイペースでどんどん頼んでしまう。居酒屋の雰囲気につい飲まれてしまうんだなんて、ただの言い訳である。困るのは自分のくせに、何でこんなことが出来るのかなあ。
 あ、俺がいるからか。
 まったく――酷い酷いと人に文句を言うけれど、本当に酷いのはそっちの方だと思うよ、俺は。
「臨也にはわかんないよ。情報屋とか意味不明な自営業やってるような人にはさ…僕は飲まなきゃやってられないんだよ!じゃないと毎日毎日やってくるセクハラには勝てないの!」
「飲まなくても、勝てたことなんてないじゃん」
「うるさい!」
 そう言うと、帝人は残っていたビールを煽って全部飲み干してしまった。うっかり、今のは失言だった。この後帝人はまたぐだぐだと自分の会社に対する文句が始まるのだ。俺は頬杖をつきながら、テーブルの上で顎をごろごろさせている帝人を眺める。
「僕はさー、マスコットになるために今の会社に入ったわけじゃないんだよ?同期とか先輩たちみたいにバリバリ仕事したいだけなの。なのにさー…何で僕だけこんなに可愛がられてるの?遊ばれてるの?からかわれてるの?全然理解できない」
 そういう悶々としているところを面白がられてるんじゃないのか、なんて言った日にはまた泣かれて飲まれてうだうだ御託を並べるので、俺は決して口にしない。多分本人も嫌というほどわかっているんだろうし。
 こうして帝人と居酒屋で飲むようになってからしばらく経つ。
 それなりに知った仲ではあるけれど、思えばこうして肩を並べて飲むようになるまでには時間がかかった気がする。もしかしたら帝人は深いところまで俺を踏み込ませるのが嫌だったのかもしれない。
 それでも二人で飲むようになってから、帝人と過ごす時間が多くなった。何かと自由の利く俺と違い、普通のサラリーマン生活を送る帝人はこういう時間を作るのに少し苦労しているようだけど、その苦労を買ってでも俺と会おうとする。
 多分そこに、特別な感情なんてない。
 店だっていつも同じ、うるさいじじい共がぎゃーぎゃー喚く煩いチェーン店だ。他のところにしようと言っても、ここが手頃だし駅から近いし云々と、帝人は変えようとしない。俺もここがものすごく嫌だというわけではないし(煩すぎるのは勘弁して欲しいけど)(この前の大学サークルか何かの打ち上げが一緒だった時は、酷かった)、他の店の希望もないので、とりあえずここに落ち着いている。
 俺と帝人は、普通のお友達というやつで。
 だからこそ、俺のことを信頼して自分が潰れてダメになっても構わないと思っているのだろうけれど。
 店も同じなら、終わりもいつも同じ。そのうち帝人が完全に潰れて俺の家へやってくる。そのまま泊まって朝、帝人が二日酔いで目を覚ます。その時まで甲斐甲斐しく世話をしてやり、昼頃帝人を送り出す。ごめんね、ありがとう。そんな言葉、何度聞いたことか。
 つまり、俺はちょっとだけ、悶々としている。
 最初に帝人に出会った頃、こんな風に帝人のことを考える日が来るなんて思ってもみなかった。ちょっと抜けた奴だなあくらいの認識しかなくて、話し始めて友達になったことすら意外で。だから惹かれてしまったのかもしれない。
(何でこんなに根気良く付き合ってやってるのか、とかそういうことまったく考えてないんだろうなあ。別に良いけどさ、俺も言うつもりないし。しばらくはこうして楽しいお友達の関係を続けていく予定なわけで。ホント、感謝して欲しいよ。俺じゃなかったらとっくに襲われて喰われてるっつーの。全然わかってない。無防備すぎる。この馬鹿)
「っていうかさ、いつも言ってるけど、そんなに会社が嫌なら俺のところに来ればいいじゃん」
「……」
 ものの見事に、おしゃべりな口が黙った。
 これが今のところ、俺が腑に落ちないところである。会社の悪口ばかり言うので、最近俺は自分のところに来いと提案しているのに、帝人は眉間に皺を寄せて聞かなかったことにしてしまう。
「俺のところ融通利くし、帝人にやって欲しい仕事もあるしさ。仕事内容も、帝人なら多分やりがいはあると思うよ?」
「…別に、会社が嫌なわけじゃ、ない」
「それだけ散々文句並べといてそんなこと言うの?この前いい加減転職したいって言ってたじゃん。あれは嘘ってこと?ただの戯言?それにしてはぽんぽん飛び出してるよね」
「……」
 また黙る。
 それを追及しようと口を開いたところで「大変お待たせしました!」と店員が笑顔で串焼きを持ってきた。しかし頼んだ覚えはない。ウーロン茶を頼んだ覚えならあるけれど。
 そういえば全然やってくる気配がない。