二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【1/9インテ】Don't goof around!【臨帝】

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 


2、家庭教師

 コチコチと、目覚まし時計の音だけが部屋に響いている。一定の時間を刻むその音が、酷く鬱陶しい。
 僕は目の前の教科書に記されている数式を眺めつつも、隣りに座っている人の気配を伺う。俯いている僕にはわ
からないけれど、今この人はどんな顔をして、どんなことを考えているのだろう。心を隠すこの人のことを、僕はこれっぽっちも理解できていない気がする。
「…ねえ、ちゃんと考えてる?」
「、…やって、ます」
「そう」
 ならいいんだけど、とこれ見よがしに溜息をついて、臨也さんはかけている眼鏡を押し上げた。一応長い付き合いだけど、彼が眼鏡をかけるのだと知ったのは、つい最近のことだ。
 この前のテストで、最低点をたたき出してしまった。
 つい夜更かしのしすぎでうっかり授業中も寝てしまい、ほとんど手もつけなかったので当然と言えば当然なのだけれど。ずっと成績を中の上で保ってきた僕に突然振ってきた点数を見て、両親が青い顔をして僕にしがみついてきたのには驚いた。普段僕のことにはあまり干渉しないので、二人がそんなに僕の成績を気にしているなんて思いもしなかった。
 そして両親はこれが僕の成績低下の始まりなのだと勘違いし(単なる怠慢だと言ってもまったく取り合ってもらえなかった)(そんなに信用ないのか僕)、隣りに住んでいる大学生の臨也さんに家庭教師を頼んだのである。僕に相談もなしで。
 臨也さんは一つ返事で了承したらしい。
 僕はその事実の方が信じられなかった。というのも、臨也さんには昔遊んでもらった記憶はあるのだが、時が経つにつれ次第に会うことも少なくなっていたからである。
 昔は本当に仲が良かったはずなのだが、成長するにつれ、やはり互いに自分の時間というものができる。臨也さんが段々僕の誘いを断るようになってきて、初めて僕は臨也さんとの距離を感じたのだ。
 だから、臨也さんが家庭教師を引き受けたのを聞いて驚いたし、同時に嬉しかった。また昔みたいに話が出来たらと、密かに心を躍らせていた。
 なのに、なのに、なのに。
「今日はもう止めにする?」
 覗きこむように近づいてきた臨也さんを、僕はなるべく自然な動きで避けた。そして首を振る。
「だってまだ全然進んでませんよ」
「そんなこと言ったってさ、帝人くん注意力散漫だし。俺が何回か呼びかけても無視するし」
「…呼んでなんか、ないでしょ」
「うん、まあ、呼んでないけど」
 何でそんな嘘をつくんですか。
 そう口にしたい。けれどこの人の笑顔がそれを許さないのだ。僕を縛っているものなんて何一つありはしないのに、まるで拘束されているみたいに動けない。
 本来なら、逃げ出したっていいくらいなのに。
「何でそんなにそわそわしてるのかな」
「してません」
「いやいや、それはないでしょ。どう見たって落ち着きがない。教科書を開いてはいるけれど、まだ一ページもめくってないの、気がついてる?そんな基本問題、君が時間をかけて解くとも思えないしね」
 どうしてわざわざ、隠しているものを暴こうとするのだろう、この人は。
 幼い頃の記憶の臨也さんは、もっと僕に優しかった気がする。優しくて頼りになるお兄さん。小さい頃はこの人の後ろを一生懸命ついて回った。置いて行かれるのが嫌で、嫌われるのが怖くて、ただぴったりと影のように追いかけた。臨也さんは僕を振り返る度、僕の名前を呼んで微笑んでくれた。それが嬉しかったから、また追いかけて。
 どこで間違えたんだろう。しかし答えはもうわかっている。そうだ、先週の土曜日。あの日が発端だった。
 あの日以来、話題に出すことから逃げている。
 僕は息を切らしながら逃げているのに、臨也さんはまるで何事もなかったかのように接してくるので、僕はどうしたらいいのかわからないまま、呆然とするしかない。僕だって夢だと思いたいのに、あの時に出来た痣は、まるで僕を嘲笑うように、まだ僕の体に残っている。
「何が、」
 僕の声は喉に張り付いて、かすれてしまっている。
 滑稽すぎて笑える。でもこれで精一杯なのだ。僕の目は今にも涙が溢れそうだし、手だって震えて本当はペンを持つのもやっとだ。臨也さんが気づいているか気づいていないかなんてどうでもいいけれど、僕はもういっぱいいっぱいで、苦しい。
「何が、したいんですか」
 それは、先週も切り出した疑問だった。
 臨也さんはあの時と同じ笑みをい浮かべ、同じ温度の言葉を僕に投げる。
「帝人くんは、どう思う?」
 そして僕は答えない。答えられない。
 臨也さんは徐に、僕の目の前に広げてあった教科書を手にとり、パラパラとめくった。特に変わったところなどない教科書だ。見ても面白いはずがない。
 唐突に、臨也さんの手があるページで止まる。
「学校、楽しい?」
「…え?」
「何でそんな怖がってる顔するの?普通の質問じゃないか。学校は楽しい?答えはイエスかノーだろ」
 別に他意はないと言う。
 急に話題をそらされて肩透かしをくらいながら、僕は「普通ですよ」と短く答えた。まったくもってその通りだったのだが、臨也さんは納得しなかったらしい。相槌を打った言葉は平坦すぎて、更に僕の体温を上げる。
「楽しい学校生活なんだろうね」
「何で、ですか」
「教科書に落書きしてある。帝人くんの字じゃないからこれはお友達の字なんだろう?俺も昔やったよ、まあこんな可愛いもんじゃなかったような気がするけどね」
 多分それは正臣が書いたものだろう。昨日教科書を忘れた!と言って泣きついてきた彼に貸してやったので、その時に書かれたのかもしれない。昨日は数学の授業がなかったので僕はその落書きとやらを見ていないのだがどうせ書いてあることはくだらないことに決まっている。
「…だから、一体何がしたいんですか」
「ん?」
「いい加減にしてくださいよ。僕だってヒマじゃないんです。遊ぶだけなら、誰か他の人にしてください」
「嫌だって言ったら?」
「だから!」
 拳を机の上に叩きつけたら、自分で思っていた以上に音が響いた。
「だから、どうしていちいち僕に聞いてくるんですか!僕は、臨也さんのことを聞いてるんです!」