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おもいで

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 ヒュンと剣が空を切る音がした。 少し間があり細い木の枝がぽとリと落ちる。
「す、すごいダス…」
「さすがメタナイトさまだ…」
 でも自分たちには無理だろう、と思い顔を見合わせるメタナイツ達。
「訓練次第だ」
 鍛錬を積めばできるようになると、彼らに武器の素振りをさせる。 メタナイトの言葉に彼らは励まされ、必死に腕を動かした。
 平和であった。それでもメタナイトは気を抜かない。高みを目指し続ける、仲間とともに……。

「メータナイトさまー!」
 水兵帽を抑えながらパタパタとワドルディが駆け寄ってくる。 動きを止めそちらのほうに向きなおると、お手紙です、と言ってワドルディが封筒を手渡した。
 いぶしんでひっくり返して封蝋を見る。彼の仮面の奥の目が大きく見開いた、がメタナイトは礼を言うとそのままマントにしまい稽古を再開させた。

「いったい誰からの手紙かわかる? ワド?」
 メタナイツ達は今日の稽古を終えると、丁度洗濯物を干していたワドルディに心当たりがないかを尋ねた。
「うーん、分からないなぁ。はじめて見る封蝋だったし…」
「封蝋?」
「あ、封蝋っていうのは封筒につける封印の事で……」
「あ、そうじゃなくてどんなのだったって聞きたいんだ」
 のんびりとした受け答えのワドルディに若干焦りながら問いを重ねる。 今メタナイトは汗を流すため風呂に入っている。
 いろいろとかぎまわっているのを見つかったらまずい。けれど気になるのである。
「うーんとね、Dっていう模様だったよ」
「なんだぁ、それじゃぁ大王さまのじゃないダスか」
 メタナイトへ手紙を送り、Dというイメージから連想されるのはこの国の王(自称との声はあるが)デデデ大王である。
「でも、お城からの手紙なら特別な封筒でくるよ」
 なんかキラキラしてるの、と思い浮かべながらワドルディは言った。 城から来る手紙は偽造などがないように特別な加工がしてある。その仕掛けの事であろう。
 なるほど、ちらりとしか見れなかったが送られてきたものは確かにごく普通の封筒であり特殊な仕掛けはなさそうであった。
「となると…」
「一体」
「誰でしょう?」
 うーん、と彼らは首をかしげた。

 メタナイトは汗を流し終わり、入れちがいにナイツたちにも湯浴みを勧めた。
「ワドルディ、今夜の私の食事は用意しなくていい」
 庭で掃き掃除をしていたワドルディにそう声をかけた。
「どこか出かけられるんですか?」
「ああ、遅くなるかもしれないが心配しないでくれ」
 戸締りをきちんとするようメタナイツたちに伝えてくれ、と言うと門のほうへ向かった。
「わざわざメタナイツさんたちに直接言わないで出ていくってことは、もしかして…見抜かれてた?」
 ぱちぱちと瞬きをしながらそのワドルディは青いマントの背中を見送った。


「尾行は、さすがにないな」
 風呂に行かせたりと出ていく様子が見つからないように出てきたのだから当然か、メタナイトはそうひとりごちた。
 誰からだ、と言えばそれで済むのだろうが、なぜだか言う気になれなくてこっそりと手紙の主の元へ行くことにした。
 ――あれからずいぶんたつな……
 珍しく感傷に浸るかのように目を閉じたあと翼を広げた。



「えーい、うるさいうるさいうるさーい!」
 俺は癇癪を起し“ゴガクユウ”を怒鳴りつけた。
「王子、ですが……」
 そいつは困り果てたように、それでも俺が逃げ出さないようしっかりと服の裾を握った。
「どうせ、父上は俺が何しようと興味ないんだ!」
「あ、あんまりです。陛下は王子の事を気にかけておられ……」
「ふん、口だけなら何とでも言えるさ。とにかく俺はこんなとこまで来て勉強なんかするもんか!」
 油断したすきを狙って手を払い落す。そしてそのまま駆けだした。
「あ、王子ぃ!」
 悲痛な叫びを気にも留めず俺は屋敷を飛び出した。

 ここはいわゆる“避暑地”というような場所で(といっても逃れるほどの暑さはこの星にはないのだが)、自分たちはここにしばらくの間滞在することになった。
 ここでは城とは違い家族として過ごす、はずだった。しかしなにがあったか知らないが父王は一緒には来なかった。
 あとで追う、とことづけられたものの裏切られたという思いが強かった。追い打ちをかけるように、家庭教師が陛下が来られるまで帝王学を、などと言いだしてきた。
 冗談じゃない。という訳で窮屈な屋敷を飛び出してきたわけだ。
 ……あいつはまずい立場になっちまうかな。
 ふと必死で俺を引き留めようとしたあいつの事を思い出した。俺がいないことで叱られるだろうか。ご学友とはいっても家臣である。何らかの咎めを受けるかもしれない。
 そう思うと罪悪感に襲われる、が頭を振る。とにかくやっちまったことはもう引き返せない。
 俺は自由を手に入れるんだ、とばかりに拳を握ったとき、カツンカツンと何かをたたく音が聞こえた。茂みの向こうに紐でつるされた枝が数本見えた。
 それを木刀のようなものでたたいている誰かの姿があった。……ワドルディ族、にしては体が丸過ぎる。体型で言うと一番近いワドルドゥなら目は一つ目だし……。
 短い腕で木刀を振り回す蒼いまん丸を俺はこっそりと考え込みながらも見ていた、そのとき、彼と目があった。一陣の風。一瞬の動きでのど元に木刀がつきつけられる。
「すっごいな、お前。こう、しゅぱって感じで! 全然目に追えなかったぜ!」
 おびえもせず興奮からまくしたてる俺に毒気を抜かれたのか、彼は木刀を下した。
「盗み見て悪かったな。あんまりにもかっこよかったらつい」
 と言って俺が頭を掻くと、そいつはそのままなにも言わず木の前に戻り木刀を構える。棒きれの間をはやい速度で縫うように木刀をふるう彼の姿はまるで何かの舞のようにすら見えた。

 この出会いから数日たつが父上はまだこない。俺も勉強はしない。お目付役をまいて毎日彼の剣さばきを見ている。彼はなにも言わない。観客がいることに興味がないのだろう、と思っていた。今日までは。
「二日だ」
 ただひたすら剣をふるっていた彼がとうとう話しかけてきた。
「今日で四日目だろ、ひいふうみいよぉ…ほら」
 数え方が違うのか、と考えていると
「今まで他人が私の稽古を見続けた記録はは二日が最高だった」
「なるほど、俺はその記録を塗り替えたってことか」
 納得してうんうんと頷く俺に彼は黄色い丸やかな目を向ける。言動は大人びているが顔立ちは幼く見える。
「一体なぜ飽きもせず見続けるんだ?」
「逆になんであんたは毎日修行してるんだ?」
「……強くなるため」
「強くなるため……?」
 俺の言葉に彼は首を縦に振る。。
「なんで強くなりたいんだ?」
「いつか力が必要になったときに後悔したくないから」
 まっすぐな彼の思いに俺は拳を握りしめた。
 ――オレハ イッタイ ナニヲ シテイルノダロウカ
「それで私の問いかけには答えないのか」
 彼が再び尋ねた。
「俺はもっと知りたいんだ。目標を持つことを!」
作品名:おもいで 作家名:まなみ