おもいで
デデデ大王は、がはは、と笑う。
「昔の私だったらきっとあれがこの国の宝だと気付かなかったろうな」
この部屋にあるものの中できっと歴史的、文化的に言えばもっとも価値のない、だがこの城の住人たちにとってみればきっと何物にも代えがたいもの。
ふとそんなことをメタナイトが口にした。数々の戦いと出会いそれが己を変えていったのだ、と続けた。
「そうだな」
デデデ大王は同意する。一番自分たちに影響を与えたピンク玉が脳裏をよぎり苦笑する。
「きっと私はかつての私に言わせれば堕落したのだろう。だがきっと昔より今のほうがずっと幸福だ」
高みを目指すこと、それ自体は変わらない。だがほんの少しその歩みを緩め、周りに合わせたことで気持ちがすっと楽になった。ひとは変わる。時の流れがゆっくりと癒してくれる。
「ところで、あのとき言いかけたのって何だ?」
「なんのことかな?」
「剣を見つける直前に何か言おうとしたじゃないか。ほら『もしも、お前が』って」
「そんな昔の事、覚えてるはずがないだろう」
メタナイトは目線をそらす。
「いやそれは絶対覚えてる顔だな」
「仮面の下なんて見えないだろう。……思いだしたら言うさ」
幼い世界しか持たなかったから自分を認めてくれたひとに尽くしたいと純粋に思えた。けれど今はだれかひとりではなくもっと大きい区切りで守りたい。もっとも、それもまた変わるかもしれないが。
だがそれはきっとまだ先の事。あの日の思いは胸に秘めたまま、メタナイトはまたグラスに口をつけた。
――モシモ、オ前ガ良キ王ニナッタノナラバ、オ前ヲ守ル騎士ニナロウ――
こうして喧騒交じりの幸福な夜がゆっくりと更けていった。