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津軽と俺たちの日常 3

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「シーズーちゃーん、聞いたよー? なーんか、面白い生き物飼ってるんだってね」
「何の話だ」
「またまたぁ。俺には隠し事しても無駄だってことに、いい加減気づきなよ」
「てめーのごたくを聞いてる暇は、俺には一秒たりともねぇ。さっさと新宿に帰りやがれ、このノミ蟲野郎ッ」
「ははっ、すーぐそうやって暴力に訴えるんだから、ひどいなぁ、まったく。こんな化け物なシズちゃんの複製品は、さぞかし乱暴者なんだろうねぇ」
「もういっぺん言ってみろ!」
「キミみたいな化け物を模した、人間のマガイモノなんかを大事に家の中で飼ったりして大丈夫かなって、心配してあげてるんだよ」
「どういう意味だ」
「君自身はまぁ、多少のことじゃ死なないだろうけど? そうだな、たとえば・・・・シズちゃんの大事な大事な帝人くんとかさ、傷つけられたりしないように、くれぐれも気をつけてあげなよ。そのマガイモノもキミと同じ化け物なんだろうからさ」
「てめぇは・・・・殺ス殺ス殺スッッ!!!」


そっから先は覚えてねぇ。いつものように、気がついたら周りには誰もいなかった。ノミ蟲もどっかに消えていやがった。
だから俺はおとなしく家に帰ることにした。

津軽が帝人を傷つけたりするわけがねぇ、あんなもんはあのノミ蟲野郎のいつもの手だとわかってる。わかってはいるんだが・・・。
正直、俺は俺自身を信用してねぇ。俺と同じもんでできてるあいつのことを俺は心から信じられんのか・・・自信がねぇんだ。
俺だけど俺じゃねぇから信用できるとも言えるんだけどな。
いや、こんなふうに悩むのは性に合わねぇ、というより、俺の場合キレやすくなっちまうから、できるだけめんどくせぇことは考えねぇようにしてるってのに、臨也の野郎・・・クソッ。

マンションの窓を見上げ、ひとつため息をついた。いつも通り明かりがついてることに安心してんだってことくらい、俺にもわかる。
そうだ、俺はもう慣れちまったんだ。家に帰ったら、同じ顔をしたあいつが笑って出迎えてくれることに。
俺は正直、津軽を手放せなくなるのが怖ぇ。
あいつの顔を見るたびに思い出させられる。預かってるだけなんだってことを。あいつに迎えが来たら手放さなきゃならねぇんだってことを。
動物も飼ったことねぇけど、なんていうんだこういうの、親心か?クローン相手にもつ感情ってのは、親子の情とはまた違うんだろうがよ。俺はあいつを、気に入ってる。
よく笑うとこも、ちょっと阿呆なとこも、俺の作った適当な飯をうまいうまいっていっぱい食うところも、なんだかんだで俺が疲れてるときに気を遣おうとしてくれるとこも・・・。
なんだ、あいつ俺より帝人に似てんじゃねぇか。帝人はあの年で俺なんかよりずっとしっかりしてっけどなぁ。
もうこんなこと考えてる時点で遅ぇってことにはうすうす気づいてる。俺がなついてどうすんだ。・・・こんなんで手放せるわけがねぇ。

いつものように鍵を開けてドアを開けると、玄関に帝人の靴が端のほうにちょこんとそろえてある。部屋のドアの向こうから笑い声がもれて聞こえてくる。ゆっくりと部屋のドアを開く。

「もう、津軽さん。そうじゃないですよ。ここに、こうです」
「・・・こう、か?」
「そうです。上手になりましたね。これならきっと静雄さん・・・あ、おかえりなさい」

部屋の中、ソファの向こう側に津軽と帝人がいた。いつも通りの平和な光景に、ほっと息をつく。

「あ、おかえり静雄。玄関まで出迎えられなくて、すまなかった。つい夢中になってしまって」
「別に。んなこと、しなくてもいい」

今、津軽の顔を見るのは気まずい。頭の中でノミ蟲のことばが反響する。津軽が俺の、化け物の複製品だと・・・?だめだ、イラついてきた。
俺はひとつため息をついて、とりあえずシャワーでも浴びようと廊下へと引き返した。
「そうか・・・」
背後から聞こえる津軽の声は細く、しょんぼりと肩を落としているような気がしたが、振り返らずに俺は脱衣所へ向かった。
このまま嫌われたほうが、都合がいいんじゃねぇかとさえ思った。
「なにかあったんですか」
帝人が俺の後に続いて廊下に出てきて、不安そうに俺を見上げる。
「・・・なんでもねぇ。ちょっと頭冷やしてぇだけだ」
「そう、ですか」


風呂から上がり、首にかけたタオルで頭をがしがしと拭きながら部屋に入る。
津軽は帝人と二人で仲良くソファに座っている。津軽の嬉しそうな横顔が見えた。そういや最近、津軽の笑顔を見てない気がする。
お前も飯の前に風呂入って来いよ、と津軽に離れたところから声を掛ける。
津軽が俺に気づいてこっちを向いたのがわかる。が、俺はなぜか眼をそむけてしまった。何やってんだ、俺。
「わかった」
津軽は帝人に持っていた白い布を渡して、俺の横をそっとすり抜けて脱衣所へ向かった。
部屋の空気を重く感じてるのは、気のせいじゃねぇはずだ。

「津軽さん、ご飯食べたあとすぐ寝ちゃいますもんねぇ」
「・・・ああ、ほんとに燃費悪ぃのか。それとも、どっか不具合でもあんじゃねぇか」
「そんな言い方は、津軽さんがかわいそうです」

ぴしり、と持っていたマグカップの取っ手にひびを入れてしまった。
こいつが津軽をかばうと、ついいらだってしまう。キレたりはしねぇが、力のコントロールがうまくできなくなる。
「お前は、」
静雄さんに知られたくない、という津軽さんの気もちもわかるんですけどねぇ、と帝人はその先を言いよどんで、一度目を伏せた。
そして、ひとつ瞬きをしてからまっすぐに俺の目を見つめてくる。
こいつの迷いのない青い澄んだ眼は、俺の心に揺さぶりをかける。こういうときには俺の怒りを落ち着かせてもくれる。

「津軽さん、どうも最近ちょっと焦ってるみたいなんですよね。少しでも静雄さんの役に立てるようになりたいって。今日もボタンのつけ方教えてくれって僕に言ったんですよ。毎日彼なりに、いっぱいがんばってるんです」
「津軽が・・・?」
「静雄さん、最近津軽さんとちゃんと眼を合わせて話してないでしょう。津軽さん、不安がってました。ここを追い出されるんじゃないかって」
「んなこと、するわけねぇだろ」
「僕もそう言ったんですが。静雄さん、それ津軽さんに言ってあげたことありますか?」

そう言われてみれば、最近まともに津軽の顔を見てなかった。今日ノミ蟲に言われたことだけじゃねぇ。俺の中にもともとあった、不安がそうさせたんだ。
俺は、もうあいつのことを――。

「静雄さんのために何の役にも立てない自分が、ずっと置いてほしいなんて言えない。せめて何かできるようになりたいって」

帝人が白いYシャツを静雄の手に押しつける。それはボタンがとれていたから、朝、間違えて着ないようにと出しておいた静雄のシャツだった。
よく見るとボタンが全部ついている。お前がやったのか、と帝人に眼を向けると、帝人は首を横に振った。

「それ、つけたの津軽さんなんですよ。何回か指を刺してましたけど」

不器用で危なっかしくて、でもすごく一生懸命でかわいかったですよ、静雄さんにも見せてあげたかったな。そう言って帝人がくすくすと笑う。