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津軽と俺たちの日常 3

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俺は力を入れすぎないように注意しながら帝人を抱き寄せ、わりぃな、と謝った。いいえ、と胸元に優しい声が響いた。



俺は風呂から上がった津軽をソファへと手招きして呼び寄せ、一緒に並んで座った。
廊下から帝人が夕飯の支度をしている音が小さく聞こえてきて、その音になんとなく背中を押される気がした。
隣に座った津軽は、少し居心地悪そうに眼を泳がせている。俺も、何と言って切り出そうか考えて、ついため息をついた。
それを自分に対するため息だと勘違いした津軽が、また悲しそうに肩を落とした。
いたたまれなくなった俺は、急いで口を開いた。

「津軽、悪かったな。今日ちょっと嫌なことがあってよ・・・。お前にやつあたりしたんだ」

津軽はきょとんと眼を丸くして俺を見つめた。俺もそんな津軽の顔をまじまじと見た。
不安にさいなまれると思って避けていたわりに、実際顔を合わせてみると何ともないことに今さら気づく。
互いに不安をため込みあって、こんな無駄なことを続けて、俺はこいつを傷つけてたのか、とまた自己嫌悪に陥りそうになる。

「どうして謝るんだ? 静雄は何も悪いことしてないだろう」
「いや、お前のこと傷つけただろ」
「ここにずっといたいなんて、俺のわがままだ。すまない。生きていける場所が見つかったら出て行く。だから、それまで我慢し・・・」

こいつは全然わかってねぇ!一瞬キレそうになったが、左手で右手をぎゅっとつかんで抑える。

「いや、出て行かなくていい」
「え」

津軽がほんとうに驚いたような顔をする。そのことにまたいらだつ。
ん? 俺は今、何にいらだった? 俺なのになんでわかんねぇんだ、って、いらついたんじゃねぇのか。お前は俺なのに? 何言ってんだ・・・バカか俺は。
そうだ、いくら同じもんでできてたって、俺と津軽とは違う人間だ。お互いの考えてることなんて、わかるわけがねぇ。
口にしないと伝わらない、そんなの、普通の、他人と同じじゃねぇか。
俺は頭のどこかで津軽のことを、俺なんだと思ってた。俺なんだから、俺の気持ちをわかってるはずだと思ってた。不安に思ってることがバレてるような気がして、顔を合わすのが恥ずかしかっただけなんじゃねぇか。
だせぇな。俺はほんとにだせぇ。

「お前が居たいなら、ずっとここにいろ」
「静雄・・・無理しなくていいんだ。俺は静雄の役に立てないんだから」
「役になんて立たなくていいって言ってんだ。お前がいるだけでいい。だから、どこにも行くな」

眼にうっすらと涙をためている津軽を思いきり抱きしめた。言ってわからねぇなら、離してやらねぇ。お前がどんなに痛がってもこの腕をほどかねぇ。
風呂上りの津軽は俺より体温が高くて、あまり筋肉を使ってないせいか俺より手も足も体つきも若干細い。触れてみてわかるのは、俺とはやっぱり違うってことだった。
クローンだろうがアンドロイドだろうが関係ねぇ。こいつは俺と違う人間で、全然違うことを考えてて、俺はこいつを気に入ってて、こいつが笑うと俺も嬉しい。生きている、俺の分身。
津軽、俺はもうお前を手放せねぇ。津軽がおそるおそる俺の背中に腕をまわすのがわかった。

「ここにいろ、津軽。お前はもう俺の、家族なんだからな」

肩の上に乗っている津軽の頭がそっと甘えるようにすりつけられる。津軽の生乾きの髪から垂れたしずくで肩がぬれるのがわかった。
あとでドライヤーかけてやらねぇとな、と考えていると、嬉しそうな、涙ににじんだ声が耳に響いた。

「・・・うん。ありがとう」





夕飯のあと、珍しく津軽が眠ってしまわなかったので、二人に、今日臨也に会ったときのことをなんとなく話した。
思いがけず最初に声をあげたのは、津軽だった。

「ひどい!静雄のことを化け物だなんて!」
「まったくです。臨也さんには、おしおきをしないといけませんね」

帝人も何やら不穏なことをつぶやいていたが、何をする気なのか突っ込んで聞くのは怖かったので俺はスルーすることにした。
津軽と帝人の熱はしばらく冷めやらず、その夜、構成員二名の俺の親衛隊が結成された。
平和な夜だった。