裏ふぁーすとでーと?
6
「――早坂くん……」
人込みに刃向かいながら、少しずつ金髪の男が近付いてくる。
呟く黒崎の額から汗が流れ落ちる。
「おい、黒崎。どーゆー知り合いだ?」
俺の問い掛けに青ざめた顔を向け、肩を掴んでくる。
あまりにも強く掴まれ俺は顔をしかめた。
「な、なんだよ」
「――いい桜田。今から私は『夏男』だから、絶対に黒崎って呼ばないでよ!」
「なんでだよ?」
当然でてくる疑問は凄まじい形相で遮られ、
「いいから! いったら一人で葵さんに断りにいかせるからね!!」
「――うっ!」
それは困る!
ちっ、しゃあねえ。
「わあったよ」
「真冬さん、あの人達と知り合いなんですよね?」
まだいたのか大宮。
「……そうだけど……」
「なるほど。なら……」
大宮の目がキラリと光った気がした。
「何?」
怪訝そうな俺と黒崎をよそに「なるほど」と何度も頷く大宮。
……なんだ?
「……これはちょうどいいかもしれませんね。
二人とも今日の予定を変更します」
「「……は?」」
俺と黒崎の声がハモる。
……イヤな予感がしまくる!
同じく黒崎も口元を引きつらせている。
「あの人達にばれないように、カップルとして演じきってください」
「「――うえぇえっっ!!」」
驚く俺達を放って、何かイヤホンらしき物を押しつけてくる。
「なんだよコレ?」
「これで俺が、二人が危なくなった時に直接指示出来ますから、耳にハメてください。
桜田さんは髪に隠してくださいね」
何か黒崎は言いたげだったが、既に近くに迫っている金髪を目視して、黙ってそれを耳につける。
俺もそれに倣う。
……ってかこんなんつけてたら、なんか突っ込まれねーか?
「じゃあお二人とも頑張ってください!」
じゃ、と片手をあげて去って行く大宮。
すぐにその姿は人の波に飲まれてわからなくなる。
流石にこのゲームの覇者だけあるな。
気を取り直し、大きく息を吸う。
見れば隣りで黒崎も深呼吸していた。
こちらを静かなまなざしで見つめられ、俺も決意を込めて見返した。
「――いこうか、夕輝。」
「ええ、夏男くん」
凛とした声に柔らかな微笑みを返す。
ギュッと互いの手を握り、息を調え迎撃体勢に入る。
さあ茶番のはじまりだ!
俺らがやらなきゃならんことはただひとつ!
――途中で我に返らんこと!!!
作品名:裏ふぁーすとでーと? 作家名:如月花菜