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おかえり。(エドウィン/鋼錬)

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いつもそう。
あたしを置いて、行っちゃうの。
いつまた帰ってくるのかもわからないのに。
いつまた会えるのかもわからないのに。
その逞しくなっていく背中を向けながら。
あたしをひとり、置いて。


ねえ、次はどこへいっちゃうの?





【おかえり。】






「――できた」

自室でオートメイルの整備をし一段落ついたところで、ンーーっと伸びをする。
ふっ、と窓の外に目をやると、もう日も半分以上沈み辺りは薄暗くなっていた。

あいつら、今頃なにやってるのかな。

家の玄関からずっと真っすぐに伸びていく道の先に意識が向いた。
決まってこういう時に思い出すのは、自分たちの夢を、求めるものを追いかけてあたしを置いてったあの幼なじみたち。

小さな頃からいつも兄弟みたいに一緒にいて、ばかばっかりやるあのふたりをお姉さんぶって止めたりするのが楽しくって。
あの頃はあたしのほうが全然オトナだと思ってたのに。
ずっと一緒にいられるって、そんなことあるはずもないのに心のどこかでは思ってた。
なのに、いつの間にかどんどん大きくなって、いつの間にかあたしを追い越して。
そうして、もう今じゃあの背中を見つめるのが精一杯。

「ぁ、」

ふと見つめていた道の先に大きな影と、それに比べるととても小さな影がこっちに向かってくる。

―――――――あいつらだ。

暗くて影しか見えていない。
もしかしたら、その辺の家の親子かもしれないし、兄弟かもしれない。
でも、確証はないのに確信はあった。
絶対に、あいつら。
あたしにわからないはずがないんだから。
あれだけ見ていたから。
あれだけ、一緒にいたんだから。

こんなに、待ってるんだから。


「ばっちゃーーん、あいつら帰ってきたよーーー!」

ドタドタとドア廊下に出て階下にいるピナコに叫ぶ。

「やっと帰ってきたかい」

あいつらと言うだけで通じてしまうのももう当たり前で、にやりとパイプを吹かしながら笑ったピナコは夕飯を二人分増やすべくキッチンへ入る。

そんなピナコを視界の端にとらえながら、玄関の扉に手をかけた。


◆◇◆


「懐かしいね、兄さん」

でっかい鎧の弟と田舎の一本道を歩く。

「あぁ。しっかしホント、ここらは相変わらずド田舎だな」
「まあそこがここのいい所でしょ?」

見渡せば緑ばかりで、薄暗い景色の中に浮かぶ民家の光はそれほど多いとは言えない。
普段都会にいる身からすれば果てしなく田舎の風景だ。

昔は当たり前だったんだけどな…
俺達も随分薄汚れちまった。

ふと自嘲気味に思う。

昔は幼なじみと一緒によくこのあたりを駆け回ったものだ。
あの頃はオレもアルも無邪気で子供で、こんな罪を背負うことになることも、こんな汚い世界で生きていくこともカケラだって思っちゃいなかった。

―元気にしてっかな。

その幼なじみの顔がふっと浮かびそんなことを思う。

「みんな元気にしてるかな?」

アルも同じことを思っていたのか、そう呟いた。

「元気だろ、てかあいつらが元気じゃなかったら槍が降るぜ」
「失礼だなあ、兄さんも~」

ふたりしてバカな会話をしながら目的の家につく。

「久しぶりだね」
「…ぁあ」

ドアノブに触れようとする手が心なしか強張っている気がするのは気づかないフリをして、ドアを開けた。


◆◇◆


「きゃッ」

突然目の前のドアが開き、目の前に一人と一体が現れる。

「エド、アルっ!」

最後に見てからまた更に成長した姿に少しの寂しさと逞しさを感じながら、ドアを開け二人を迎え入れる。

「ふたりとも、おかえりなさい」
「ただいま、ウィンリー」
「おぅ」

相変わらず素直に答えないエドにウィンリーは苦笑したが、その変わらないところに安堵もした。

「おや、やっと帰ってきたね、あんたたち」

ピナコがキッチンから出てきてふたりを見上げる。

「ただいま、ばっちゃん。元気そうだね」
「当たり前さね、まだまだくたばれないよ。それより三人とも、夕飯ができたから冷めないうちに食べな」
「サンキュ」

みんなで食卓を囲むのは久しぶりで、他愛ない話をしながら夕飯を進めた。


◆◇◆


片付けも終わり、アルはどこかへ行ってしまっていて今はエドの部屋で久しぶりの会話をしていた。

「そういえばエド、何で突然帰ってきたの?」
ベッドに腰掛けながら、窓辺に立つエドに問い掛ける。
滅多にこっちへ帰って来ないふたりだ、大方オートメイルの故障かその辺だろう。

「ん?あぁ、オートメイルの点検してもらおうかと思って」
「あれ、壊したわけじゃないの?」
「違ぇよ、ただ最近ちょっとハードに使ったからさ、心配になって」

オートメイルの手を握ったり開いたりしながら何でもないことのように言う。

"…ハードに使ったからさ、…"
その言葉が重くのしかかる。

わかってる。このふたりが何のために旅に出ているかも、どんなことをしてるかも。
それでも、やっぱり危険に身を晒しながら毎日生活していると考えると胸が締め付けられた。

「…やっぱり、無茶してんの?」
「ぁ?」

ぽつんと何か呟いたウィンリーを不審に思ったのか、エドが顔を上げる。

「まあったく、あたしが丹精込めて作ったオートメイルに不安がるなんて失礼ね!それにもっと大事に扱いなさいよ!」

「ア、お、おぅ、」

突然グワッとまくし立て始めたウィンリーに気圧されて、危うくさっきの呟きを忘れるところだったが、

…そうやって怒っているはずのウィンリーの顔が、何故か泣いているように見えて。

「…わりィ」

いつの間にか謝っていた。

「わかればいいのっ!もう、直すのだって楽じゃないんだからねぇ」

金になるからいいんだけど、とバタンとベッドに倒れておどけてみせる。

「結局そこかよ」

ははっと笑ってみたが、ウィンリーの反応がない。

「…ウィンリー?」

ふっと気になってベッドへ歩み寄ると、

「ぇ、おぃ」

仰向けの顔に腕を被せて肩を震わせていた。


◆◇◆


エドに泣き顔を見られたくなくて、バレないうちに泣き止もうとおどけたフリをしながらベッドへ倒れ込む。

「結局そこかよ」

ははっと笑う声が聞こえて何か返そうと思ったが、声を出せば泣いているのがバレてしまいそうで何も言えない。
不審に思ったエドが近づいてくるが腕で顔を隠すのが精一杯だった。

「ぇ、おぃ」

エドの戸惑った声が聞こえる。

「あー…、ごめん、なんか」

困惑しながら謝られてはなんだかこっちが申し訳なくなる。

「…ごめん、ね。気にし、ないで」

うまく言葉を繋げられないながらもそう言うと、泣き止もうとしてしばらくじっとする。
エドも何も言わずにベッドに腰掛けた。

「……オレさ、実は。ちょっと怖いんだ。ここに帰ってくんの。」

突然ぽつっとエドがつぶやく。