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おかえり。(エドウィン/鋼錬)

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「なんか、オレたちの家はないのに、この手で捨てたはずなのに。おまえもばっちゃんも、家族みたいにオレたちのこと迎えてくれてさ。けどたまに、もしこれが夢で、実はおまえもばっちゃんもいなくて、ここに帰ってくる理由がなくなっちまったらって考えたらさ。自分たちで捨てたはずなのに、無性に怖くなっちまって。覚悟は決めたはずなのに、毎回家の扉を開く瞬間にびくつくんだ」

情けねぇよなぁ、と乾いた笑いを漏らした。

「でもさ、やっぱ…」

そこで黙ってしまったのを不思議に思い顔から腕を退かしてエドを見遣る。

「…でも、なに?」

続きを促すとエドは頬をぽりぽりとかじりながら明後日の方向を向いて口を開き、

「……心配してくれるやつがいるのは悪くねぇな、なんて」

顔を真っ赤にした。

普段強気で意地っ張りなエドがこんなことを言うなんて、とウィンリーは目を丸くする。

なんだよ、って顔を赤らめたままぶっきらぼうに目線だけ寄越すエドがなんだかかわいくてかっこよくて、寝転んだ顔の横につかれていたエドの手に自分のを重ね、上半身を起き上がらせ額を隣に座る者の肩に預けた。

「…あたしは、ここにいるから」

一連の動作を見て目を見開き顔を更に赤くして口をパクパクさせてるエドに構わずに手をぎゅっと握る。

「エドとアルがいつでも帰ってこられるように。どんなに傷ついても、ここでなら安心できるように。これは夢なんかじゃない、ちゃんと現実で、あたしもばっちゃんも、ちゃんとずっと待ってるから」

だから、いつでも帰ってきて――

握りしめていた手がおずおずと握りかえされ、留めていたはずの想いが溢れ出す。

「…っ、いつも、心配してるんだからね!帰ってきたと思ったらボロボロだし、治ったと思ったらすぐ行っちゃうし…!」

ダメだ、涙が出る。
昔はあんなに一緒だったのに、なんてことはもうお互い子供じゃないってわかってるから言えないけど。
けどやっぱり淋しくて。

「連絡だって寄越さないし、いっつもいっつも勝手ばっかり!少しはこっちの身にもなってみなさいよ…!!」

顔を見られたくなくて肩に額を押し付けていると、フワっと空気が動いて肩にあった額が相手の胸に移動していた。

エドの手が背中に回り抱きしめられる。
爆発しそうな心臓を抑えながらそろそろと抱きかえすと、いつの間にか広くなっていく背中に切なくなってまた涙が溢れる。
こんなに好きなのに、大切なのに、どうして一緒にいられないの…?

「ウィンリー、」
「…なに?」
「…ありがとう、な」

耳元で聞こえた声にもう心臓止まっちゃうんじゃないの?なんて思うくらいドキドキして、彼の滅多に聞けない素直な言葉が嬉しかった。

「…うん」

なんて返したらいいか解らなくてただ一言。
それでもあたしたちには充分で、久しぶりのエドの香りが恋しい。

抱擁を解かれて視線が合えば、恥ずかしいのかいつも通りに戻ったエドは目線を少しずらして心なしか赤い顔を寄せる。
それに応えようと重ねていたエドの左手を、右手で握りしめながら瞳を閉じたウィンリーの頬に添えられた手は機械のはずなのに何故かとても温かい気がした。




◆◇◆



「兄さんたちどうなったかなあ―」

夕飯の後に庭で犬と戯れ、2階に戻ろうとしたら部屋からウィンリーとエドワードの声が聞こえて。
明らかにウィンリーの声が震えていて泣いているようだったから一瞬兄が何かしたのかと思ったが、いっつも心配してるんだからね!という叫びともつかないウィンリーの声にその可能性を否定し部屋を後にした。

ウィンリーにはいつも心配をかけてしまっているのはわかっている。
どんなに強がったってウィンリーは女の子で、ずっと一緒にいた幼なじみで、兄さんのことが好きで。
ボクのことも同じくらい好きなんだろうけど、ちょっと違うから。
ウィンリーが兄さんを想うのは、恋心ってやつだ。
だから、いつもボクと違って身体の大半が生身の兄さんがボロボロになって帰ってくるとすごく辛く感じてるのを知っている。
だけどウィンリーは表には絶対出さないで兄さんにガミガミと説教して、がつがつとオートメイルの修理をして。
そしてその辺で眠ってしまうエドの顔を眺めては辛そうな、悲しそうな、でも恋しそうな顔をするんだよね。

さっきみたくウィンリーが本音を吐き出すのは珍しいけど、やっぱりボクたちが傷つけて追い詰めてるのはわかってるから。
たまには爆発しちゃったっていいと思う。
それに兄さんは女の子の涙に弱いし…ね。

クスクスとひとりで笑いながら、上階にいるふたりの一時の幸せを想った。



◆◇◆



昨夜口づけを交わした後に泣きつかれてエドの腕の中で眠ってしまったらしく、
目が覚めると目の前にエドの顔があり背中に腕が回され腕枕。
いつもは三つ編みにしている頬にかかる金髪をはらってやる。

―そういえば、一緒に寝てって縋った気が……

普段なら絶っ対にしない甘ったれた行為に赤面したのが自分でもわかる。

―昨日はたまたま弱ってたからっ。
じゃなきゃ泣いたりするわけもないし、一緒に寝てなんて…!

自分の中で適当に理由をつける。
そして、またいつ発ってしまうかわからない者の顔をもう少し焼き付けようと見つめているうちに、温かな体温にまた夢の中に引きずりこまれた。






「………ん」

いつの間にか寝てしまっていたと起きると、隣にエドの姿がない。
自分の部屋に戻って着替え下に下りると3人がご飯をたべていた。

「おはよ―」
「おはよう、ウィンリー」
「はよう」
「遅いじゃないかい」

ちょっと寝過ごした―とピナコに言い席につく。

「ウィンリー、ボクたち今日発つから」

アルの一言に一瞬フォークを止めてしまいそうになったが、何事もないように振る舞う。

「もう行くの?もう、もう少し落ち着いてきゃいいのに」
「そうしたいのは山々なんだけど、行かなくちゃいけないとこもあるし」

ごめんね、と謝るアルの表情は鎧だからわからないが、声音はほんとに申し訳なさそう。

「そうなんだ…。なら早く食べて用意しないとね!」

そうやって進んでくみんなで囲む食卓の雰囲気を記憶に焼き付けようと、他愛もない話を一生懸命した。



◆◇◆



「じゃあ、行くね」

玄関でアルとエドが荷物を手に立ち、ウィンリーも見送りに出ていた。

「うん、気をつけてね。あんたたち無茶ばっかりするんだから!エド、オートメイルまた壊したら承知しないからね」

ニヤリと笑ってみせるとエドがたじろぐ。

「わ、わーってるよ」
「ならよろしい!アルも、気をつけてね」
「うん、ありがとうウィンリー」
「またいつでも帰ってきなさいよ。てか連絡くらい寄越しなさい!!」

詰め寄るとふたりしてあはは…と苦笑していた。

「じゃあ、そろそろ行くよ。またね、ウィンリー」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
「おぅ」

結局エドは来たときと同じ返事しかしなかったけれど、ちゃんと気持ちは伝わってるから。

遠ざかって行くふたつの背中を見えなくなるまで見送りながら。


いつでも、いつまでも、待ってる。

あたしは、ここにいるから。