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XYZでさようなら

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国家の治安を維持するための軍隊組織として、『ダラーズ』という組織があった。元はそれぞれ陸、海、空と所属が別れていた『黄巾賊』、『ブルースクウェア』、『罪歌』という三つの組織だったこの軍隊は、志を同じくする同志でありながら諍いが絶えず、絶えないスパイ活動や確執の果てに『ダラーズ』という一つの組織として纏まることで決着を見せた。各々の組織で絶大な権限を持っていた各リーダーは組織が『ダラーズ』と名前を変えてからも要職に就き、現在は元々の組織と何の関係もない人員も増えたお陰か昔のような確執もない。しかしこの『ダラーズ』には一つだけ大きな謎があった。以前対立していた三つの組織を纏め上げ、現在『ダラーズ』の全てにおいての権限を持つというダラーズ元帥のことを、誰も知らないという謎である。
平和島静雄はそんな『ダラーズ』に仕官する人間の一人だった。幼い頃から人並み外れた怪力を持ち、恐れられてきた彼にとって軍隊というのは至極真っ当な就職先だっただろう。暗い緑の軍服をかっちり着込み、その日その日のノルマをこなせば後は自由に動ける。決められた制服、決められた腕章など絶対の規則さえ破らなければ別段うるさいことも言われないというこの緩さを静雄は気に入っていた。
陽射しは今日もうららかで、日向に寝そべればうっかり昼寝でもしてしまいそうな程である。柔らかい陽の光が差す廊下の向うに純白の制服を見止めて、静雄はおおい、と声をかけた。静雄の知る限り、真っ白な制服を身につけている人物など一人しか存在しない。
「静雄さん!」
「おう、元気してたか竜ヶ峰」
ダラーズの証である黒い腕章を腕に付けた少年は嬉しそうに静雄に駆け寄る。ある程度の服装の自由が認められているこの軍隊、『ダラーズ』においては、以前所属していた組織の色をモチーフとして使う者も少なくない。更に、帝人の制服には階級を表す階級章が存在していない。前線に出て作戦を遂行する静雄らは所属と指名を明記した階級章を身につけることを義務づけられているが、ダラーズの膨大な情報を処理する情報部門の人員は表に出るということがまず無いため階級章は支給されているものの身につける義務はない。帝人自身から階級や所属を聞いたことはないが、静雄はこの少年は情報部門の新入りだろうとそう考えていた。それにしても真っ白な制服というのは目についたが。
静雄は背の低い帝人の頭を乱暴にぐしゃぐしゃと撫でてやる。静雄と同じ実戦部隊所属のセルティや医療部門所属の新羅といった以前からの友人らを除けば、その怪力により仲間内からも怖がられている静雄と唯一てらいなく接してくれるのがこの少年だった。何するんですか、と口では言いながら帝人は気持ち良さそうに目を細めている。
「静雄さん、これからミーティングですか?」
静雄の歩いていた方向を見ながら帝人が尋ねる。静雄はそれに首肯しながら答えた。
「紀田の大将から、至急の呼び出しくらってな」
至急、と言う割にのんびり歩きながら静雄は言う。慌てたようにしたのは帝人の方だ。
「じゃあ早く行かなきゃじゃないですか静雄さん。怒られますよ!」
「そうなんだがな、竜ヶ峰に会ったから」
静雄にとっては帝人は癒しのようなものだ。ちょこまか動く姿やころころ変わる表情に心が和む。神経をすり減らすミーティングより帝人と喋っていたいというのが静雄の本音だった。
「僕も仕事に戻りますから、静雄さんも早く行ってください。静雄さんが要なんでしょう?今回の作戦も」
「あー、まぁ、多分な」
「ほらほら、急ぐ!紀田将軍から怒鳴られますよ」
急かす帝人に見送られながら静雄は人っ子一人いない廊下を急いだ。

「遅いぞ、平和島静雄曹長」
指定された部屋の扉を開けると、真っ先に呆れたような声が飛んできた。
「すみません、紀田正臣将軍」
「遅れている自覚はあるんだな。さっさと席につけ」
四角く並べられたテーブルの一角に腰掛ける。見れば招集されているのは士官のそうそうたる面々である。
「これよりD地区の掃討作戦の概要を説明する、心して聞くように」
黄色い髪と、形こそ同じなれど色の違う制服に身を纏った少年といえる外見の男が口を開く。真黒の制服に黄色のバンダナを腕に巻いた、元黄巾賊のリーダーだった人物。三人の元トップのうち、静雄と最も接触する機会が多いのは彼、紀田正臣だった。
「しかし、D地区は確か非戦闘区域では……」
「掃討ということは、当然民間人にも被害が……」
顔を見合わせざわざわと言いあう士官らを正臣は睨みつける。だん、とテーブルに拳を叩きつけて一言言い放った。
「レジスタンス共の根城がD地区だと割れた」
ざわついていた人々がぴたりと口を閉じる。
「体面だとか人道だとか、そんなことを言っている場合じゃねえんだよ。文句なら、元帥殿に言うことだな」
厳しい面持ちになった一同に正臣は淡々と作戦内容を言い渡す。最後に作戦決行日時を明日と定め、解散とした。士官らはばらばらと動き出す。隣人と何事か話し合う者、真剣な面持ちで部屋を出ていく者。その中で一人、静雄は正臣に歩み寄った。
「今回の作戦は元帥殿の命令、なのか?」
「ああ」
ひょうひょうとした体で正臣は答える。
「一般人を殺せと、そう言っているのか元帥殿は」
「お前の正義感が強いのは分かるが、口を慎むべきだな」
正臣の強い視線に射竦められて、静雄は口を噤んだまま目礼をして部屋を後にした。


「やあ、そこを行くのは静雄じゃないか」
『久しぶり』
「新羅にセルティじゃねえか。二人揃ってどうした」
『ちょうどお昼をとっていたところなんだ』
白衣の男性と、首のない軍服の女性。女性の首から上には人間の顔はなく、煙のようなものがゆらゆらとたゆたっている。タイトなミニスカートから長い脚を優雅に伸ばしている姿は、首から上さえ目をやらなければ美人と言い切れるだろう。
「なんだい、不機嫌そうだね。獰悪な獣も尻尾巻いて逃げ出すような面してるよ」
「ちょっとな」
どっかと食堂の白い椅子に腰かけた静雄は煙草をぷうかとふかしはじめた。
『掃討作戦のことで、紀田将軍に突っかかったらしいな。そのことか?』
心配げにセルティが手にしたPDAに文字を打ち込むのに、まあなと静雄は曖昧に相槌を打つ。
「静雄は阿ることなんて知らなそうだしねぇ。お偉方とは仲良くしておいて損はないよ?」
この僕のようにね!と胸を張る新羅は確かに同期では一番の出世頭だ。何時の間に、と静雄は感心するよりも呆れが先に立つ。まあ新羅の場合は少しでも高い地位について内外の敵意からセルティを守ってやるというのが一番の目的であるだろうが。
それでもなぁ、と静雄はがしがし頭を掻く。
「レジスタンスを捕らえるために一般市民を犠牲にするだなんて、矛盾してるじゃねえか」
「まあレジスタンスの件はね、僕も仕方ないと思うんだけど。そんなに嫌なら、元帥殿に直談判でもしてくればいいじゃないか」
「直談判?元帥って奴が何処にいるかも分かんねえってのに」
「ああ、知らないのかい?元帥の執務室があるんだよ」
作品名:XYZでさようなら 作家名:nini