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XYZでさようなら

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「静雄さん、ここは私の部屋ですよ?総統である私の。当然、隠し武器や隠し通路が備え付けられています。他の場所では私は決して勝てない。けれどここなら」
喋りながら、壁の装飾を引き抜く。ずる、とぎらぎら鈍色に輝く刀身が現れた。
「あなたに勝てる」
外見通り大した膂力も持っていないのであろう、少し細身の剣を構えた少年の唇の端が歪む。
「上等だよ、総統殿」
静雄も唸るような声で凶悪な顔で応える。
「私が勝ったら、ダラーズに大人しく飼われていてくださいね」
「俺が、化け物が負けるわけねーだろ」
ひょいとそこらの石ころでも拾うような動作で、背の高いスタンドを持ち上げた。剣と対峙するにはいささか迫力が足りなかったが、殴打の武器としては十分な重量だ。
予備動作もほとんどなく横薙ぎに振り回す。帝人がそれを軽々と避ければ、今度は叩きつぶすように上から振り下ろす。静雄の動きは粗暴で単純だが、それを補って余りある純粋な力がある。帝人も一度受け止めたものの、すぐに横に流すと、その流れのまま斬りつけた。薄皮一枚程度の切り傷。筋肉に覆われた胴体に傷を負わせるのは諦めた方がいいらしい。
静雄の攻撃を悉く避けながら帝人は思考する。化け物といえど、基本的なつくりは人間なのだ。人体の急所を攻めればあるいは。
「すばしっこいな、当てさせろよ」
鉄製のスタンドは床や壁に何度も叩きつけられて既にぐにゃぐにゃと曲がっている。殴打武器としての体すら成していないそれを静雄は力任せに壁に投げつけた。がらがら音をさせてぶ厚い壁が崩壊していく。帝人はぞっとした。
「御覧の通り、身軽さと知恵が武器なもので」
負けじと軽口を叩きかえす。避けること以外は碌に出来ていない自分が歯痒かった。
がく、と静雄が崩れた。流石に血を流し過ぎたらしい。帝人は当然その隙を見逃さない。軽く跳ぶと崩れた静雄の喉目掛けて剣を突き出した。渾身の一撃。静雄がはっと目を見開いて、その喉に刃が届いた、と思った瞬間。
ぼり、鈍く軽い音がした。
音の出処は帝人である。静雄の喉元で鈍色の刃はぴたりと止まっている。
「―――っ」
息を詰めるように唇を噛み締めた帝人は目をぎゅっと瞑ったまま小さく痙攣していた。喉元まで迫っていた剣を無理矢理掴んで止めたせいで静雄の左手は血に塗れている。力を失った帝人の手は剣から滑り落ち、ずるずると床にへたり込んだ。白い軍服の裾はじわじわと朱に染まっていく。その左足はまるで握りつぶされたかのようにあらぬ方向を向いていた。絶叫こそ堪えた帝人だったが、これ以上静雄に対抗することは不可能だった。
放り投げた剣はがらがら耳障りな音を立てて床に落ちた。
「これで、終いだ」
帝人は丸腰のまま床に座り込んでいる。荒い息が耳についた。静雄の言葉に顔を上げた帝人は、振り上げられた拳と笑みに歪んだ静雄の顔を目に映し、
「しずおさ……」
そう、絞り出すように言った。
初めて泣きだしそうに顔を歪めた帝人にびくりと静雄は拳を引く。仲間内でも怖がられていた静雄と屈託なく笑っていたあの少年と、目の前の総統閣下が重なって見えた。しかし一度振り下ろした拳を止めることは出来ない。
「させません」
ごつ、と硬いものに拳がぶつかる感覚がした。
ぎらぎら光る鈍色が見える。刀だ。刀の向うに女が見える。真黒な制服に真っ赤なリボンをした眼鏡の少女だ。蹲った帝人を守るようにもう一人、青いネクタイを締めた小柄な少年が静雄と帝人の間に割って入った。
「園原杏里、それに黒沼青葉か……!」
割って入ったのは紀田正臣と並ぶダラーズの幹部ら。特に園原杏里は刀を扱わせれば天下一品との誉も高い。これは自分が不利だと見てとった静雄は左右を見渡し、つい先程投げたスタンドが開けた穴を蹴たぐることで大きく広げ、空中に身を躍らせた。
「逃がすか!Aゲート、Bゲート封鎖要請!反逆者……」
そこまで言いかけた青葉を帝人は手で制する。
帝人は壊れて風穴が開いた壁の向うを薄らと見つめて、「静雄さん」と呟いた。

作品名:XYZでさようなら 作家名:nini