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「伊達ちゃんさー、音楽聴く割に、こういうのやろうとすると逃げるよね。出来ないのかな。」
「え、伊達は譜面読めるよ?だから譜面書けるはずだって。音楽やるのは嫌いみたいだけど。」
俺様は目から鱗が落ちたみたいに瞬いた。
放課後だった。
携帯アプリで、チカちゃんがポチポチ曲を打ち込んでいるのを横で見ていた。
「確か、ピアノ習ってたんだったっけ。ソルフェージュっての?曲聴いて譜面を起こすの、やらされたって言ってた。できなかったらこれだけしつこく誘わねーって。」
チカちゃんは携帯から眼を離さずに言った。
「大体、佐助より音感悪くないから仕上がりの確認お願いしてんじゃん。で、作るときに口出してくれたらもっと早く打ち込み終わんのになーって思って毎度誘ってんの。」
「うっそ、できるのに協力してくれないんだ?薄情ー。」
「んー、本気で音楽やる方は嫌みたいだなー。なんつーの?演奏じゃなくても表現する方。最初、すっげえ顔で睨まれたもん。」
チカちゃんはインディーズレーベルが好きらしく、一般にダウンロードできない曲を携帯用に着メロを作ってはケータイサイトにアップしている。
入力はパソコンの方が早いけれど、ミスが無いかの確認を俺様や伊達ちゃんにお願いしたいとかで、こういう機会がこれまで何度かあった。
が、伊達ちゃんはいつも声をかけるとすぐに逃げた。
今日も、そういや頼んでた本が入ったって言ってたな、とか言って図書室へ逃げたのだ。
「えー、なんでー?わかんないなー、ちょっと教えてくれないかなーそこの廊下でしゃがんでる人ー?」
わざとらしく首を伸ばして大きな声を俺様は出す。
チッと、舌打ちが廊下から聞こえた。
ガラッと教室の引き戸が開いて、そこには本を3冊抱えた伊達ちゃんが立っていた。
「Shit! うっせえぞ、佐助。チカ、いっぺん聴かせてみろ。」
「ほい、こんなん出来てるけど、どうよ?」
携帯から電子音が流れる。これをパソコンで楽器指定して完成させるのだ。
「・・・・・ん、ここ、もうちょっとメロウでゆっくりがいいと思うぜ。伴奏はレを二部で。」
曲の途中で口を挟む様子は慣れていて、本当に、出来ないわけじゃないのは良く分かった。
「他、アレンジした方がいいとこは?」
「トリル多用した方がCool だとは思うけど、雰囲気変わりそうだから止めとけ。」
「ま、伊達がそういうなら?」
チカちゃんは伊達ちゃんを苗字で呼び捨てる。
友達は名前で呼び捨てる主義らしいのだが、伊達ちゃんに限っては本人の強い意向で苗字を呼び捨てている。
政子、という名前がつくづく伊達ちゃんは嫌いらしい。
歴史マニアのお母さんが、北条政子から取ったらしい。
それがとにかく気に食わないのだそうだ。
「でさ、何でそんなに嫌なの?」
「ああ?」
ギン、と射殺せそうな視線を俺様は向けられた。
「あー、音楽ねー、聴くのは好きだよね?やたら詳しいじゃん。」
「・・・チカ。」
「だって、そろそろ教えてくれてもいんじゃね?」
思わぬ援護射撃がチカちゃんから入った。俺様もソレに乗じる。
「教えてくれたら、それなりに便宜図るよ?文化祭に合唱あったよね。伴奏なんて面倒くさいの皆やりたがらないから、大抵、級長に押し付けられるらしいよ?」
ギョッとした顔が俺様を見ていた。
「佐助ー、それ脅迫に聞こえるー。」
「えー、チカちゃんそれは無いでしょー?俺様、友人に親切心からタダで情報提供しただけよ?」
「オレには、教えないならオレに弾かせるって聞こえたがな?」
伊達ちゃんは怒鳴りたいのを我慢しているらしい、引き攣った顔で笑った。
ほんと、そんなつもりはなかったんだけどねえ。
「ま、それならそれで良いけど?教えてくれなきゃ他の人に弾かせる理由もなさげだからね。」
「大した理由じゃねえんだよ。」
「ふーん、直江にピアノが上手いって言っておこー。」
「チカっ!!」
「誰が、とは言って無いじゃん。」
「・・・それこそ脅迫だよチカちゃん・・・。」
呆れた俺様を尻目に、伊達ちゃんは深い溜息をついた。
折れたらしい。小さくボソリと呟いた。
「・・・・・音楽は、やるの、怖えんだよ。」
俺様とチカちゃんは、顔を見合わせてパチクリと瞬いた。
怖い、と伊達ちゃんはイコールで結びつかなかった。
だから本人も言いたくなかったんだろう。

それはピアノの発表会で起きたことだと、伊達ちゃんは言った。

伊達のわりとご近所に、プロのピアニストが教室を開いていた。
当然、周囲の奥様方は挙って子供を通わせた。
一種のステイタスでもあったらしく、幼い伊達も家の面子を背負って渋々と通っていた。
レッスンはマンツーマンだが、発表会は大勢が聴く。
そこで起きた一幕だった。
弾いたのは明るい曲。
子供らしい、メヌエット。
伊達は勿論ノーミスで完璧に弾いた。
生徒は演奏が終われば他の発表者の演奏を聴くことが義務付けられていて、室内ホールの客席に戻ろうとした。
そのロビーで、伊達は奥様方に取り囲まれた。
知った顔も知らない顔もある、他の発表者たち、つまりご近所の子供たちのお母様方に。
あんまり完璧すぎるので、自分の子供を目立たせるためにヤキでも入れられるのかと勘繰ったが、そうではなかった。
皆が口々に、大丈夫か、辛いだろう、苦しいだろう、耐えられなかったらいつでも私たちの家に逃げ込んでいいんだからね、とそう労わった。
顔も知らない誰かの母親が、伊達を取り囲む輪の外側で眼に涙すら浮かべていた。
伊達は、愕然とした。
母親たちは本当に、ただ本当に伊達を心配し、哀れみ慰めようとしていた。
愕然としたが、何故とは思わなかった。
理由は、伊達にも薄々分かっていた。
発表はノーミスで完璧だった。
ただ、伊達自身は不満足だった。
曲に着いた色が、デッサンが、表現が、今日に限って上手く取り繕えなかったからだ。
朝、家を出る前、お浚いのために触ったピアノの一音でさえ、それは本人にも分かっていた。
確実に教師であるピアニストは気付くだろう。
レッスンのときでさえ時折そういう、表現を取り繕えないことはあって、そんなときに教師は眉を顰めていた。
伊達の子供らしくない本質が、心情がピアノを通して露わにされたからだった。
正直を言えば発表会には出たくなかった。
だが逃げるという選択肢は伊達には無かった。
背負っているのは伊達の家の名だったのだから。
その場に集まった母親たちは他の母親たちとは確実に違ったのだろう。
耳が良かったのだ。
そして、取り繕えなかった伊達の本質に触れてしまったのだ。
なるほど、子供の演奏を日々聞いているだけ、耳が肥えていたのだろう。
テクニックではない、表現という一点において耳が良かったのだ。
伊達は戦慄した。
弾いていたのは明るいメヌエット。
CMに使われることさえあった、誰もが耳に馴染んでいる楽しい曲。
にも関わらず、母親たちは10歳にもならない小さな子供の身の内に不釣合いに巣食う孤独と葛藤と悲嘆を曲から感じ取り、集まった。
彼女たちは間違いなく伊達の本性を知ってしまったのだ。
演奏をすれば、伊達はそのリスクを背負うことになるのだ。
それを自覚した瞬間だった。
伊達は愕然とし、戦慄した。