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赤い

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荒ぶる運命の波を乗り越え見事レン夫人となったエミリアは、夫の忘れ物を届けにIRPOは捜査官のオフィスフロアへエレベーターで上がって受付係に取り次ぎを願った。
 今日は、事件が多かったのか、
 いつもは『一般人の立ち入り禁止』であるはずの正面口の警備が甘く人の流れに紛れ込み侵入するのはたやすかった…別に正規に許可を求めれば問題なかった筈だが、最悪な思い出の残る場所のお高くとまった正義の機関に対するさりげない反発心がそうさせたのである。
 しかし、フロア受付は、そんなエミリアを咎めるどころか、その名を聞くや『レン夫人ですね?』と、手でフロア奥を指し示した――拍子抜けである。
 それは、正義の名の下集える者達の、悪意ある者は此処に至る事能わずという矜持であるのか、合法的暴力機関の驕りなのか。

 ともかく足を進めた先には、その中でも腕利きの捜査官達が跋扈する牙城…そのうちの一人、彼女の愛する夫は、
「エミリアありがとう! 助かったよ」
 と、妙に浮ついた笑みを浮かべながら妻を迎えた。
「どうかしたの?」
 忘れ物の件ではない。
 彼の視線がそわそわとある窓と自分をさ迷うのを見咎めていた。グラディウス時代に培われた勘というものである。
 レンは、驚いて、苦笑いして、噴き出した。
「見てみるかい?」
 フロアの中に設けられた特別な部屋。
 その大きな窓には、リージョン世界のあらゆる種族の調査官が(夫とは違うチームの捜査官達も)多数、砂糖にたかる蟻のごとく群がっている。
「いいの?」
 色んな意味を込めたエミリアの問いに答えたのは、冷たい美貌の調査官。
「レン夫人、多分貴女にとって見とくのは悪い事じゃないわ」
 ドールの言葉は理解できなかったが、とにもかくにも、許可を貰って窓を覗き込めば――金髪の狂った男が、しかめっつらで椅子に座っていた。
 部屋の内装にも覚えがある。
「取り調べだよ…」
 気遣う夫に、自分の好奇心を後悔しながら、頷いた。
 かなり大きな鏡があると思ったが、マジックミラーだったとは。

 それは、あの悪夢の始まりに酷似している。
 ただ一つ違うのは、テーブルの向こう――あの男に取り調べられる贄が、エミリアでなく見知らぬ三十前後の男であること。
 贄は、餌食となる運命を知ってか、貧弱な長身を更になよらせていた。
「ヒューズ…」
 後に、成り行きで仲間となるも、あの時のわだかまりが凝ったまま、運命を決した後も融ける事なく今に至る。
 はっきり言って、余り係わり合いを持ちたくない。
 夫の詫びは、その事も含まれているのだろう。
 ええ、と、呟いた言葉が届いただろうか、どこぞから響くスピーカー音に会話は打ち切られた。
《――トリニティ役員安田氏より、お前は、教師という立場を利用その責務から大きく逸脱し、未成年者である被害者をりゃくしの上、暴行をしようとしたという訴えがあった》
 何という、女の敵――!
 憤慨に表情を険しくしたエミリアだったが、捜査官達は許せない犯罪を前にニヤニヤした相貌を崩しもしない。
 そこまで腐っているのかと、懸念が表層意識に現れる寸前、今までただ震えていた贄の男が弾かれたように顔を上げ叫ぶ。
《違います! 私と彼女は恋人同士なんです! 彼女とも同意の上です!!》
 なるほど、と、解った。
 トリニティの役人は、そこそこの地位を有するのだろう。いわゆる上流階級の娘は、権力の階段を昇るのに最適な駒。それについた虫を排除するべく、IRPOに捜査依頼をごり押しして来たのだろう。
《確かに、教師でありながら、生徒を愛するのは犯罪行為に近いのかも知れません……しか…し、結婚を前提として真剣に…!》
 何とも弱々しい悲痛な声。こんな事ではこの男の狂気に太刀打ちできまい―――だが。
 あろうことか、ヒューズは苦虫を噛み潰したような顔で視線を逸らすばかり。
《しかし、生徒だろう…どうして、そのような…》
 何ともクレイジーの名が泣くような冴えない動機の追及に、心底驚いたエミリアが、窓越しに男を指さしながら夫を振り仰げば、
 夫もその同僚達も、必死で笑いを堪えて口端を歪めている。あの、サイレンスさえも……それにも、驚いた。
「彼は、ようやく、気付いたようだよ…」
「可愛い『あの子』への気持ちに、ね」
 堪えられないと、口元を押さえて肩を震わせ笑う捜査官達の話が解らない。

 窓の中で取り調べは続いていた。
 容疑者である男はそれにも気付く余裕もなく必死で訴えた。
《きっかけは些細な事だったんです…普通に生徒に対する軽口の後サンドイッチをあげる事になって…その時の『ありがとう』という笑顔が可愛くて》
《…………》
 腕利き捜査官は、口の端をピクリと吊り上げる。
 秘術の資質を求める者を試すのも、IRPOの者の大事な職務の一つ。
 なのに、ヒューズは彼を前に無条件で秘術の四柱の一『盾のカード』を差し出してしまった。
 その時の、彼の、笑顔―――これが、全ての始まり。
《それでも最初は、素直に喜怒哀楽を顕す子だな…程度だったのに、気が付いたら必要以上に構っていて》
《…………》
 そう、返される憎まれ口すら可愛くって、わざとからかったりしてしまって。
《そうかと思えば、トリニティ役人の娘というある意味特殊な境遇のせいか、常にどこかで覚悟を秘めた目していて―――参りました。彼女に惹かれている自分に気付いてしまった》
《………う…》
 何よりも。
 正義と復讐の狭間ギリギリで生きる。その、危なっかしい生き様に、惹かれた。
 そして、最後の最後に、復讐を取らなかった彼に……参ってしまったのである。

「どうする? ヒューズ君? この男をディスペア送りにできるかね?」
 どうやら上司らしい、恰幅のよいスーツ姿の男が、手に持ったムスペルニブルの頂上にしか咲かない赤い花弁に口付け、笑う。花言葉は―――赤い炎の誘惑。
 ドールがコットンのモンスター語を通訳した。
「無理無理。それなら、真っ先に自分を送らなきゃ…ですって」
 辺りはまた大きな笑いに満たされる。
「何の事よ?」
 そっちで話を終わらさないでと眉をひそめだした妻の耳に、レンはその名を囁く……彼の狂った恋の色の名前を。
 笑いが伝染したのは、瞬間。
 両手で口元を抑え、必死で笑いを堪えながら、エミリアは息も絶え絶えに言葉にした。
「嘘…今更、気付いたの……?」
「そうなの、間抜けな男でしょう?」
 ドールが、一刀両断した。

《…愛しているんです…教師と生徒とか立場じゃなく…彼女を!》
 ヒューズは、目を瞑る。
 この男は、自分と、同じ。
 いい歳こいて、年若い子供に今までの価値観を一遍に壊された、哀れな男だ。
 しかし、
《卒業を待って、彼女に告白しました。ら、彼女もそう思ってくれてたみたいで、笑顔で応えてくれて……ヒィ! 何だか、すみません!》
 その時の思い出か途端にデレだした男の顔に、銃口を向けてやる。
 この野郎! 少しでも同情した俺がバカだった―――なんて、妬ましい…クソったれが!
《……ちょっと、待ってろ。逃げようとしても無駄だからな》
作品名:赤い 作家名:梅鳥