人外化パラレル詰め合わせ
区域規模の蜘蛛の巣【CP無し】
「いやぁ、間近で見るとなかなかどうしてエゲツナイね」
白衣の男、岸谷新羅の前では少年がどこからか捕らえてきたらしいハトの腹に齧りついて、じゅるじゅると音を立てながら羽毛の下にある肉や臓を啜り出している。ハトの身体は見る間に萎れ、皮だけになった残骸は『生ゴミ』と書かれた黒いゴミ袋の中へ放り込まれた。袋の中身は似たり寄ったりで、知らない輩が見ればまず間違いなく悲鳴を上げるだろうが、生憎と現在この場にそんな輩はいない。
「そう思うなら見なければ良いでしょう」
少年は露になった額にある、人間とは異なった形をした6つの眼球をキョロリ、と新羅の方へ向けてきた。
帝人、と呼ばれているこの少年の正体は計8つの目、1対の触肢と4対の歩脚を持ち、糸を使って網を張る化蜘蛛であり、新羅が愛して止まない首無し妖精、セルティ・ストゥルルソンの弟分である。何故にアイルランド出身の彼女が純日本産の彼を義弟としているのかは知らないが、セルティの義弟であるなら自分の弟分であると新羅は思っている、たとえ実年齢が遥か上だとしても。
「そうは言っても興味が尽きないんだ」
「そうですか」
帝人は新羅の言うことを気にするでもなく、今度はノラネコの死体に齧りつく。消化液を送り込み溶けた中身を啜る、という作業を繰り返し、やはり皮だけになった残骸としか言い様のない死体をゴミ袋へと放り込む。
体積が減ったとはいえ、重なればそれなりの量になる袋の中身は腐敗が始まる前に彼がどこかへと捨てに行っている。恐らく今夜にでもまた外出するのだろう、食事を終えた彼はどこへ捨てに行くべきかを端末に地図を出して思案している。彼とインターネットとの相性は非常に良いらしく、インターネットを世界規模のクモの巣とはよく言ったものだ、とぼんやりと思った。
「あまり遅くならないでね。セルティが心配するから」
「心配されるようなことはしませんよ、姉さんの花嫁姿を見るまで死ねませんので」
「それを伝えたら『帝人が死ぬなら嫁になんか行かない』って言い出すんだろうね、セルティは」
盛大に出た溜息に苦笑された。否定の言葉はない。
「……帝人君が弟じゃなかったら本気で殺してたよ」
「その仮定はあり得ません、僕は姉さんの弟ですから」
ゴミ袋の口を縛り、彼はベランダの方へと歩く。開け放たれた扉からは夜風が感じられた。
「とにかく気をつけて。いってらっしゃい」
いってきます、という言葉と共に白糸が宙に舞う。白糸に引かれるように、少年の身体は風に乗った。
作品名:人外化パラレル詰め合わせ 作家名:NiLi