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人外化パラレル詰め合わせ

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薄紅色の麗かな日【杏帝】


 誕生日といえば一般的にケーキとプレゼントを用意するものである、という認識を持つ杏里はバレンタイン以上に頭を捻っていた。
 何せ誕生日である。他人の記念日に便乗して気持ちを伝える謂わば口実でしかないその日より、他ならぬ帝人が生まれたその日は杏里にとって何倍も、何十倍も重要性が高い。気合も入ろうというものだ。本当なら帝人を生んでくれた彼の両親にも礼の品を贈って然るべき、と思うのだが正臣にそれはまだ早過ぎる、重過ぎる、と言われたのでその分も帝人を祝うことにする。まだ、という部分がなくなる頃に改めて感謝を示せば良い、彼の存在にどれだけ感謝をしているのか知って貰えるなら問題はない。その考えに正臣の口の端を引き攣らせていたが無視させて貰うことにして、とにもかくにも帝人の誕生日である。
 重要性が高い、ということはそれだけ失敗が許されないということだ。帝人に一切の害がない日にしなければならない。
 というのも杏里にはバレンタイン・デーの前科がある。杏里が作ったチョコレート(のようなもの)を食べた直後、帝人は腹痛を訴えた。慌てて駆け込んだ闇医者宅では医者が似たようなことになっていた、原因は言うまでもないがセルティの作ったチョコレート(のようなもの)だった。腹痛だけでなく四肢の痺れまで起こし始めた2人に杏里とセルティが混乱状態になり、これは駄目だと判断した帝人が痺れる指を必死で動かして自力で救急車を呼んだ。彼等が運ばれた後、騒ぎを聞いて駆けつけた正臣に正座で説教を食らった。新羅に関しては我関せずの正臣なので、セルティはつき合わなくても良いのに隣で同じく正座をしていたのが本当に申し訳なかった。そして帝人は入院することになった。見舞った先で点滴を打たれている彼を見て切腹という単語が脳内を占めた。
「気にしないで、園原さん。食べたのは僕の意思だから。チョコ、ありがとう。嬉しかったよ」
 その言葉に眩暈がした。美味しかったとは言わないところが正直だが、故に嬉しかったも虚偽ではない。だというのに自分は何という物を、と後悔と反省とで綯交ぜになった。正臣に1週間の断食を言い渡されて甘んじて受けた、が、1週間後に反動で食い過ぎて帝人を昏倒させた。2月中は罪悪感に苛まされて過ごした。
「大丈夫だよ、園原さん。僕は生きてるから、泣かないで」
 大丈夫ではなかった。顔は青かったし、そもそも新羅はその日の内に帰宅したにも拘わらず帝人が入院せざるを得なかったのは元から彼が弱っていたからだ。凡そ杏里が原因である。そうまでしてくれているのに杏里は帝人に何一つ返せていない。
 プレゼントも考えて、考え抜いて選びたかったが現実はそんなに甘くない。少しずつだが確実に、帝人の存在は知られてきている。帝人の安全を優先して害になり得る食人種を斬りに斬っていたらいつの間にか辻斬りの噂が立ってしまった。おかげで狙い方が姑息なものに変じてきている。いつ襲撃されるかと不安は晴れず、買い物などに現を抜かしている余裕などなくなってしまった。加えて敵が増えたことで食事量も増えた。帝人を守るために帝人を食い潰しては本末転倒なのだが、食わねばまた鈍刀になってしまう、それでは彼を守れない。セルティや正臣も協力してくれるがあまり負担にはなりたくない、しかしそうなると帝人への負担が増える。
 分かってはいたが寄生蟲とはそういうものだ。奪うことにのみ特化していて害以外を与えることが出来ない。ならばせめて感謝を伝えたいのに、伝えようとしてこの結果である。何が拙かったのか、といえばもう最初から間違っていた。やはり彼を食べるべきではなかったし、寄生蟲と知られるべきではなかったし、それ以前に親しくなるべきではなかった。しかしこの関係が成立した時点で全てが手遅れだ。杏里が離れれば他の捕食者が帝人を狙うだろう、弱っている彼に抵抗する術があるとは思えない。自惚れかも知れないが帝人にも杏里は必要だ。しかし杏里が動く度に帝人へ負担がかかる。せめてその負担を、どんな形でも良いから軽く出来れば、と考えて、
「…………あ」
浮かんだそれは妙案に思えた。





「家賃も生活費も私が出します。家事は不得手ですが努力しますから」
 守れる距離にいないから不安になり、無駄な敵まで斬るから負担が増えるのだ。ならば不安要素を消せば良い。
「一緒に、暮らしませんか」
 杏里よ、それは求婚だ、という正臣のツッコミは無視させて貰うことにした。
作品名:人外化パラレル詰め合わせ 作家名:NiLi