二次創作小説やBL小説が読める！投稿できる！二次小説投稿コミュニティ！

この感情は災厄でしかない　２月14日【波帝】

　２月初旬も終わり、今月に残る最後にして最大の祭事はバレンタインである。某製菓会社の陰謀だろうが何だろうがこの日に退けば女が廃ると言っても過言ではない、２月14日とは決戦の日だ。以前ならば毎年のように弟のことを、愛弟のことだけを考えて溢れんばかりの愛情をチョコレートに溶かして惜しみなく捧げてきた、が、今年はそうもいかない。
　勿論、愛弟には例年通り愛を込めてチョコレートを贈る。これは決定事項だ、生涯において揺らぐことはない。ストーカーから仮初とはいえ恋人に昇格した泥棒猫と一騎討ちになるだろうが、生まれてからずっと見守ってきた自分が負けるとは思えないので此方は直球勝負を仕かけるつもりだ。他の雑魚など眼中に入れるに値しない。
　問題は不本意極まりないがどうしても感情を割かずにはいられない契約中の同居人の方である。放っておけるなら放っておきたいところであり、尚且つ恐らくは言葉通り嫌という程にチョコレートを貰うだろうから放っておいてやるのが彼にとっても都合が良いだろうがそうもいかない。この同居人、自身が人ならざる者共やその混ざり者共を無闇矢鱈と惹きつけて露骨にも程がある好意を寄せられておきながら無自覚に等しいのだ。無自覚故に対処をせず、池袋へ来てから日を追う毎に彼に惹かれる輩は増えるばかりで彼女に取って代わろうとする女豹が後を絶たない。バレンタインに手を抜いたとあれば雑魚ですら調子に乗りかねないのだから猛者共が何を仕出かすかは火を見るより明らかだ、面倒は大事になる前に全力で手段を選ばず叩き潰さなければならない。
　なので考える。但し製菓会社の陰謀には乗らない。チョコレートなど誰もが考えつく貢物など先述の通り嫌でも貰うのだから彼を苦しめるだけで、ついでに彼の好みではない。同居していれば自ずと知れることだが彼はその童顔からは想像しがたい味覚の趣味をしている、チョコレートより煎餅の方が喜ぶだろう。しかし煎餅ではあまりにも色気がない。夕飯を豪勢にしても良いのだが感覚の違いか感情の差異か――多分に後者である――彼の引き攣る顔しか想像がつかない。不本意とはいえ憎からず想っているのだから当然、そんな表情は望んでいない、素直に喜んで欲しいだけなのだ。それがこんなにも難しい。
――出逢いたくなかったわ
　弟のことだけを考えていた幸せな日常を返せ、と罵りたくもなるが現実はもう同居までしている。今は女豹を蹴散らすのが日課、彼の口から弟のことを聞くのが至福だ。ここまで来てしまった以上、手放すつもりはない。一息吐いて、財布を手に取る。
「材料を見ながら考えれば良いわね」
何はともあれ視察である。





　しかしその結果として渋茶を出し嫌がらせと思われ八つ当たりをしてしまうのだから、春はまだ遠い。