世界の終焉十題・遺
【青帝:あの人は国と命を共にした】
「不幸な人でしたよ、本当」
何処までも優しいくせに、何処までも不幸な身だった。
その優しさゆえに何処までも傷ついて、苦しんで、そして。
「この人は、こんな国のために…」
軍服の裾が風を孕んではためく。
青空に深い緑色の軍服が良く映えていた。
「……馬鹿な人、ですよね」
あの人の名前が刻まれた墓石は、ただ静かにそこにあった。
【静帝:名誉だなんて思えないわ】
国のために立派に死んだ。
とても、名誉なことだ。
それがこの国の"常識"、だからあの人は"とても名誉ある死"なんだと。
「……思えるわけ、ないよ」
国のため国のため国のため、それだけに汚染された常識ならいらない。
あの人が生きていたのも、死んでしまったのも、国なんかのためじゃない。
そう思うのは間違いですか?
【?帝+静:あなたの遺したこの世界】
「お前、今幸せか?」
目の前の子供に問いかける。
子供はきょと、と俺を見返すと小さく笑った。
「はい、幸せです」
「……そうか」
「だって、」
あの人が、この世界を遺してくれましたから。
「だから、幸せなんです」
そう笑った子供を、俺はただ髪を撫でることしかできなかった。
【臨帝:元に戻りゆく世界と隣の空席】
戦いだけに彩られていた日々が幕を閉じても。
この手に持つものが、重い銃でなくなっても。
消えた緑や鮮やかな花々が視界を埋めても。
空が、何処までも青く澄み渡っていても。
あの、優しさで満ちた子供は、冷たい場所からは帰ってこない。
【臨帝:守られるはずがなかった約束】
『奈倉さん』
『何時かまた一緒に、あの景色を見に行きましょうね』
笑いながら君が言った約束が、頭を過ぎる。
黙っててごめんね、騙してごめんね。
でも、本当に。
(君が、好きだったんだよ)
突きつけた銃口は、同じ様に銃を突きつけている君の泣き顔を狙っていた。