世界の終焉十題・遺
【静帝:あなたの守った国は、美しいです】
ずっと待っています。
そう言って送り出した背中は、今何処にあるのだろう。
戦争が終わっても、ずっと前のような平和を取り戻しても、帰ってこない。
それでも、ずっとずっと待っている。
あの人が守ってくれた、この美しい場所で。
【正帝:もう一度おはようを言いたかった】
「またな」
それっきり、離れ離れになって、もう二度と話すことは出来ない。
これから先も、ずっと一緒だったはずだった。
朝に会ったら「おはよう」って言って、馬鹿な話をして、でも、でも。
――もう、返事は無い。
【臨帝:伝えられなかった言葉の束】
「好き」
「大好き」
「愛してる」
伝えたかった、伝えられなかった、伝えれば、よかった。
帝人君がちゃんと受け取ってくれたか分からないけど。
ねぇ、帝人君。
君は笑わないで聞いてくれたかな。
【静帝:あなたに捧げる花の色】
「綺麗だな、その花束」
「はい、でも………静雄さん、」
「なんだ、?」
「静雄さんに差し上げます。……僕はもう、この花の色は分かりませんから」
帝人はそう言って、俺にずいっとその花束を差し出す。
風が吹き抜け、花弁が小さく揺れていた。
帝人の手に己のそれを重ねて、花束をまじまじと見る。
色取り取りのそれは、帝人の持つ雰囲気によく合っているというのに。
「でもきっと、静雄さんみたいに優しい色ですよね」
「……何だそりゃ」
「きっとそうです、だって」
一緒にいると、とても落ち着きますから。
そう笑った帝人は何処までも優しさに溢れているのに、閉じられた瞼はもう永遠に開かない。
戦争が終わっても、色が戻っても、傷が癒えても、どうしても。
それが悲しく、俺はその傷だらけの身体を抱きしめた。