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happy kitchen

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【ある日の朝 * オムライス】




食堂にはバターと、かすかなケチャップの香りが漂っている。
今日のメニューはオムライス。
もちろん卵はふわふわのとろとろ。ほんわり黄色のそれにスプーンを滑り込ませると、中からは鮮やかな橙色のチキンライスが顔を覗かせる。
オムライスを考えた人は天才だと思う。味はもちろんだけど、黄色と橙色という色の取り合わせがなんとも美しい。

「美味しい?」

「さあな」

テーブルの向かい側でさくりさくりとスプーンで掬いとっては口に運ぶ人物の様子を肘をついて見ながら、もう何度目かになるやりとりを交わす。彼の言葉は相変わらずそっけないけれど、数日前のボクたちの関係からすれば信じられない程に穏やかな雰囲気なので、さして気にならない。それどころかこんなふうに彼と過ごす時間が、なんだか心地よいとさえ思うようになっていた。人間の適応能力というのはつくづく凄い。

「・・・人が食べるのを見ていて楽しいのか?」

食べる様子をじっくり見つめているのが気になったのか、十神クンがこちらに問いかけてきた。確かに食事している時に見られると食べにくいというのは一般的な感覚かもしれないけど、色々一般的ではない彼はそんなこと全然気にしないと思っていたが、違うんだろうか。そもそもホットケーキを作った時から同じことをしているのに、なんだか今更な質問だなあと思う。
返答代わりに頷いてみせると、十神クンは理解できないといった風に冷めた視線をこちらに寄こして、またオムライスを口に運ぶ作業に戻った。だってやっぱり、自分が作ったものの反応は気になる。もっとも、彼は一度も美味しい・不味いのいずれも口にしたことはないけれど。(ちなみにボクから感想を求めても、先程のように曖昧に濁されてしまう。ただ、出された料理を残したことは一度もなかったから、一応及第点なんじゃないだろうか)
ちなみに、彼の食器の扱いは(ナイフ・フォーク・スプーン・箸、いずれにおいても)とても優雅で洗練されていて、見ているだけでも気持ちいい。育ちの差とはこういうところではっきりと表れるものだと実感する。

「あ、今日も全部食べてくれたんだ」

とりとめもないことを色々考えているうちに、オムライスが盛られていた皿は空になっていた。――やっぱり嬉しい。
食器をお盆にのせながらありがとう、と言うと十神クンは怪訝な顔をしたものの、言葉を発することはなかった。

「じゃあ、ボクはこれを片付けてくるから。またお昼にね」

「おい」

「えっ?」

かしゃん。
持ち上げかけたお盆から片手が離れて、食器が擦れる軽い音が響く。
お昼は何にしようといくつものレシピを浮かばせていた頭では、現状を把握するまでに数秒の時間を要した。だから、ボクの右手首を十神クンが掴んでいることにようやく気付いたのは、食器に傷がないことを確認してほっとした後だった。

「・・・ええと、十神クン、どうしたの?」

手首を掴まれたまま数十秒沈黙が続くと、さすがになんとなく居心地が悪いものだ。
当然とも言える疑問を浮かべたボクに、しかし彼からの回答はない。代わりに、手首を離しては掴み、離しては掴み、とまるで何かを確かめるかのような動作を繰り返した後に、ぽつりと独り言のように言葉が落とされた。

「細いな」

「は?」

実際それは独り言だったのかもしれない。だって、その発言の内容を理解しようと反芻している内に、彼は手を離して、ボクの方を見もしないでさっさと食堂を出て行ってしまったのだから。

「・・・えええ?」

ぽつんと置き去りにされて静まりかえる食堂で、傾いたお盆を片手で支えているという間抜けな格好のまま、ボクは頭を傾げた。
作品名:happy kitchen 作家名:アキ