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甘い熱だけ残して

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確かずうっと前にもこんなことがあったなあ、と勘右衛門は目を瞑った。
 まだほんの子供のころ、風の冷たい日のことだ。

 前日薄く降り積もった雪にはしゃぎすぎたのか、朝起きて部屋の戸を開けるなり吹き付けた風にくしゃみを一つ。母に言われて大人しく布団に入ったはいいが、薬を取ってくるからとそばを離れられたらどうしても心細くて、何度も引き止めて母を困らせた覚えがある。
 学園(ここ)にはもちろん母はいないが、そばにいてほしい人がいる。
 けれど勘右衛門は口をつぐんだ。もう甘えたな子供ではないし、それにもしその名を呼ぼうものなら、自身の何もかもを放り出して飛んで来かねないと思ったから。

 ―――なんて言ったら、惚気になるかな。

 むずむずする鼻を擦り、彼はくすっと笑みを漏らした。

作品名:甘い熱だけ残して 作家名:たつき紗斗