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UNITE

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「旅に出たんじゃなかったんだね、どこに行ってたの」
「ん? ああ。……いや、旅には出るつもりだったんだがな、空港まで行ったのにそこで追い返されてしまった。まだまだ俺は旅立てないらしい」
彼がそっと笑う気配がした。サニーにはきっと何のことかわからないだろう。オタコン自身も今、サニーとは別の意味で、理解が追いつかなくて頭の中がぐちゃぐちゃだ。
 コツコツとノーマッドの固い床を踏みしめ、彼がオタコンの座るベンチの方へ向かってくる。ほぼ反射的に、膝の上に置いた手をぐっと強く握り締めてしまう。一体、何がどうなっているっていうんだ、そう叫びたい気分だった。
「オタコン、……帰ってきたぞ」
気配はオタコンの真横でぴたりと止まる。目の端に、スネークの腕にしがみつくようにして抱きつくサニーが見える。
「本当に、君なのか、スネーク」
叫ぼうとしても勢いが足りず、カラカラになった喉からようやく搾り出すようにして、オタコンは呟いた。
「こっちを向いて確認すればいいだろう。なんなら、サニーみたいに抱きつくか?」
「はは、そういうこと言うってことはスネークみたいだな……でも、」
オタコンの瞳に映る灰色の壁や機器類、いろんな物の輪郭がぼやけ始めた。
「君は幽霊だとかいわゆる白昼夢とかいうやつで、僕が振り向いたら消えてしまうんじゃないのか?」
喉が知らず知らずのうちに震えて、語尾が吹けば消し飛ぶような微かさになる。
「ハル兄さん、ちゃんとスネークはいるよ。ここに、いる」
サニーが和やかな笑顔を浮かべてオタコンを促す。オタコンはサニーの方を見遣って少し微笑んだ後、不安げな顔をそっと上げた。
「オタコン」
 人の形を取った黒と肌色、壁の灰色がぐにゃぐにゃと滲む視界の中で、肌色のものがそっと伸ばされ肩に少し重みがかかる。自分よりもずっと熱いそれが彼の手のひらであることをオタコンはようやく理解する。ゆっくりと目を閉じ、そしてゆっくりと開く。一瞬クリアになった視界には、オタコンのよく見知ったスネークが、いた。すっかりグレーに染まった髪も、痛々しい頬の火傷も、顔の深い皺も、スーツの上からでも分かる締まった身体も、間違いようがないほどちゃんとスネークだった。
 スネークは紛れもなく生きていて、そして今ここにいる。
「人を幽霊扱いするんじゃない」
彼の笑う顔はもう見えない。また輪郭が滲んできたからだ。頬に走る感覚に気付き、オタコンは初めて泣いていたことを自覚する。それでも涙は止められない。何度も何度も瞬きを繰り返し、その度にスネークが現れてはぼやける。メガネの隙間から指で拭っても追いつかない。そのうち息が苦しくなって、オタコンは子どものようにしゃくり上げていた。スネークは肩の手を頭に移動させて、泣き続けるオタコンをそっと撫でてやる。
「スネーク、君、なんだね」
途切れ途切れになりながら、しかし本当に嬉しそうに顔をほころばせてオタコンは言った。
「ああ、そうだ」
 スネークはオタコンの涙に濡れた瞳をじっと眺める。オタコンもまだ少しぼやりとした目でしっかりとその視線を受け止める。そして彼から発せられる雰囲気がとても和らいだものになっていることに気付く。
 今までのスネークは、どんなにリラックスしている時間であっても身体の芯が常に張り詰めているようなところがあったのだ。オタコンはそれに気付く度、とても冷たくて悲しいものに触れた気分になっていたものだった。
だが、今のスネークは違う。心の底から安らぎを感じているのが伝わってくる。彼をああまで頑なにさせていたものが、ここを去ってからまた戻ってくるまでの短い間に氷解してしまったのか。
 どうして? なぜ? スネークに聞きたいことや言ってやりたいことが山ほどある。けれど今はそんなことよりも、たったひとつ、最も伝えたいことだけをオタコンは口にした。
「……おかえり、スネーク」
 言うやいなや、オタコンはスネークの腰をぐっと引き寄せて、彼の腹のあたりに顔を埋める。スネークは少し驚いた様子だったが、すぐに隣のサニーに目配せをする。サニーはそれに応えてにっこりと笑って、オタコンの肩とスネークの腰にぎゅっとしがみつくように腕を伸ばした。オタコンは少し顔を上げ、サニーと目が合うと柔らかく笑う。スネークは二人の背中に手をやり、労わるような手つきで二人を包み込む。
 暖かな抱擁に再び涙が瞳の奥からじわりじわりと染み出してくるのを感じながら、オタコンは頭の中で言葉を繰る。
『サニー、僕たちはきっともう家族なんだ。僕たちは今までそれに縁がないとばかり思っていた。けれど、本当はもう手に入れていたんだ。こんなものを家族とは呼ばない、人はそう言うかもしれない。けれど僕たちのこの結びつきを、他の何に喩えればいい? だから、誰が何と言おうが、僕たちは家族なんだ』


 それは何の変哲もない朝だった。
けれども、彼らにとっては素晴らしい始まりの朝となった。
作品名:UNITE 作家名:キザキ