僕の特別
話し終えた後日々也さんは無言で黙ってしまった。何か考え込んでいるようで、急に不安を覚える。ふと、彼は僕の方を向く。繋がれたままの手に力が込められた。
「ごめんね、少し予想外で、驚いてしまった。まさかこんなに早く告白されるとは思っていなかったものだから」
「告白?やっぱりこの気持ちは特別な好きだって思ってしまっていいんでしょうか…僕、初めての感情に酷く戸惑っているんです。こんなの、今までこんなこと………」
「俺には君も俺と同じ気持ちだって聞こえる」
次の瞬間僕は日々也さんに抱しめられていた。ますますドキドキはうるさくなってくる。
あの日と同じように顔にも熱が集まり始めていた。
「日々也、さん…ドキドキします、でもこのドキドキは日々也さん限定なんですよ?」
「………誘ってる?」
「?」
「君の天然発言は凶器だね」
そう言って、困ったように笑われてしまった。どういう意味なんだろう。
「俺だってドキドキしているよ」
「ほ、本当ですか?」
僕は彼の胸に耳を当ててみた。僕と同じ音がドキドキと日々也さんから聞こえてくる。
「誰だって好きな子をこうして抱しめていたらドキドキするものだよ」
僕だけじゃない、この人もドキドキしてくれている。素直に嬉しい。
「どうしよう、俺すごく嬉しいよ。嬉しすぎてログアウト(落ちて)してしまいそうだ」
余裕で微笑んでいる彼はとてもそんな風には見えないけれど。
でもきっと本当の事だ。日々也さんも僕と同じ。
「一番と一番の好き同士の事をなんて言うか知っている?」
「はい、両想いです」
「両想い同士はどうなるか知ってる?」
「恋人とというものになります」
帝人君と臨也さんみたいに。
「正解」
「あの、僕達も恋人同士になれるんですか?」
「なれるんじゃないよ、なるんだ」
「あ…」
日々也さんの指が僕の顎にかかる。僕は顔を上げて彼を見つめた。
「よ、宜しくお願いします」
「うん。宜しくね、学天君。………ねえ、キスしてもいい?」
「…?は、はい、どうぞ」
日々也さんが瞳を閉じて、顔が近づいてくる。すごくかっこいいなって思った。
唇が近づいてきて、ちゅ、と唇と唇が重なった。
「………………」
え、口?
それは触れるだけの軽いキス。すぐに日々也さんの唇がゆっくりと離れる。
見つめ合ったまま彼は照れくさそうに微笑んだ。いつもの爽やかな笑顔とは少し違う。
けれど驚かされたのは僕の方だ。だって、頬にされるんだと思った。もちろんそれは勝手な僕の思いこみ。でも落とされたのは唇だった。お口とお口。
僕の瞳は日々也さんの唇を離さずにリアルに唇の感触まで感じてしまい、顔から湯気がでそうだという表現はこの時に使うのがまさにそうだと思う、それぐらい熱かった。
なにもかも、パニック寸前だった。
「は、反則です!反則、で、す……!!!いきな、り、だって、口、口に……!!」
「恋人同士は口と口を合わせるんだよ」
「し、知ってます、知ってますけど…でも、あのっ………」
「けど目開けたままキスは駄目だよ、瞑らなきゃ、やり直し」
近づいてくる顔に抵抗すべく僕は首を大きく左に傾けた。
「え?!だ、ダメです!離して下さい!!!僕、僕もうちょっと本当に、持ちません!!」
「何が持たないの?」
「~~~~っそんな事聞かないで下さい…」
もう、心がもたない…!今にも意識が飛んでしまいそう!
ドキドキが止まらない、止まらない、抑えられない、それなのに
彼の顔がまた近づいてきて─
「う、え、えええあ、ちょ、ダメで──」
あ、まずい、と思ったら遅かった。
「…!学天君?…嘘、まさか落ちたの?学天君、学天君!!」
「………………」
遠くの方で日々也さんの声が聞こえる。
けれど視界は狭まれていき完全にブラックアウトした。
***
『あーあ、かわいそうに。感情の負荷が大きすぎてついに落ちたね学天君』
「臨也、見てたんですか?」
『気が付いていたくせによく言うよ』
「寝顔可愛い」
俺は腕の中にいる愛おしい人を抱き寄せた。やっとこの子が俺のものになった。
俺の傍にいてくれる。
『俺はてっきりサイケの方とくっつく思ってたんだけどねえ、まさかお前とは。あいつ泣くよ絶対』
「そうだとしても俺はこの子を他の誰にも譲るつもりなんてありませんから」
『ほーんと、学天君の天然爆弾発言は誰に似たんだか』
「邪魔しないで下さいね、臨也には帝人君がいるでではないですか。俺達は俺達で幸せになります」
『はいはい、お幸せに。とりあえずさ帝人君もうすぐお風呂から上がってくるしそしたら学天君診てもらうからもうちょっと待っててよ。俺がやってもいいんだけど帝人君怒るからなー』
「ええ、宜しくお願いします」
ブツリと臨也は姿を消してこの空間に残されたのは俺と学天君だけになった。サイケがいないときにこの子が現れたのは俺にとってはまさに飛び込んできた幸運だ。まさか告白されるとは思ってもみなかったが。
一目惚れだった。
笑顔で俺に話しかけてくれた可愛い子。もっと彼の事を知りたくて、彼に近づいた。彼の歌う音はとても明るくて楽しませてくれる。俺もすぐにファンになった。サイケが、他のみんなが可愛がるのがよくわかる。とても、いい子だ。綿密に計算を練って絶対に落としてやると意気込んでいたのだけれどこんなにも早く手に入ってしまってどうしようか。
いいさ、時間はまだまだたくさんある。俺達はまだ知り合ったばかりでこれから恋人としての時間を育んでいけばいい。…本当に俺が触れるとドキドキするとか煽りすぎだ。
早く目を覚まして俺だけを見て。
俺の学天君。