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玉木 たまえ
玉木 たまえ
novelistID. 21386
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その夜は泣いていた

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 秋丸が久々に郷里に戻ったのは、高校時代の先輩である大河と涼音の結婚式に出席するためだった。
 新郎の友人の営む小料理屋で開かれた二次会は、すっかり場が乱れて、人々は好きずきに酒を飲んだり、ひたすらしゃべり尽くしたりして過ごしている。本当に気の置けない仲間たちばかりの集まりなので、式や披露宴とはまた違った賑わいがそこにはあった。
「秋丸、ちょっと」
 座敷の片隅で友人との話に花を咲かせていた秋丸は、奥から呼びかける声に気がついて振り返った。視線の先では、先輩の一人が手招きをしている。
「ごめん、行ってくるわ」
 軽くそう告げて立ち上がると、友人はひらひらと手を振って笑った。もう既に随分酒が入っていて、その動きのひとつひとつが泳ぐようにゆっくりである。秋丸自身も、そこそこには飲んでいたので、歩みを進める足先がほんの少しふらついた。
「どうしたんですか」
 招かれた先にたどり着くと、数人の男たちが何かを囲むようにして集まっており、その彼らが一斉に振り向いたので秋丸はすこしぎょっとなった。
「お! いいとこにきた!」
「ほら、榛名! 秋丸が来たぞ~」
「いい子だからおうちに帰ろうなー」
 輪の中心にいたのは馬鹿でかい図体をした男だった。壁によりかかり、だらしなく四肢を伸ばしている。男は眠いのか、大きな手で乱暴に目をこすりながら、うーうー唸っている。
「あの、これ……」
 秋丸はややげんなりした表情でその大きな体を指差した。先輩たちはみな一様に困ったような、それと同時にこの状況を楽しんでいるような表情で秋丸を見つめ返した。
「さっきまでは、寝てて静かだったんだけどなあ」
「榛名がこんなに酒弱いとは知らなかった」
「すげえペースで飲んでるからてっきり強いんだと思ってたら、いきなりばたんって倒れてそのままぐーすか寝始めるんだもんなあ」
「それで、さっき起きたと思ったら」
 口々に語る先輩たちの言葉を遮るように、榛名が何か言った。秋丸は思わず、え、と問い返す。すると榛名はがばと顔を上げて叫んだ。
「タカヤは!」
「は?」
「タカヤまだ? ねえ、先輩たち、ほんとにタカヤ呼んでくれたんすか?」
 怪しい呂律のまま榛名はそう言った。一体なにを言っているんだ、こいつは、と思って呆れていると、同じように呆れた表情で先輩が息を吐いた。
「ずっとこの調子なんだよ。起きてから、タカヤがいない、タカヤを呼んでくれ、まだかまだかって」
「はあ……」
「タカヤって、あれだろ? 確か榛名がシニアん時にバッテリー組んでたとかっていう」
 ええ、と相づちを打ちながら、秋丸はそのタカヤのことを思い返していた。最後に見たのは彼が高校三年生の頃、夏の大会の試合をテレビで観戦していた時のことだ。秋丸たちとは違う、西浦高校のユニフォームを着て、彼はグラウンドにいた。
「そんなに仲良かったわけ?」
 先輩の問いに、秋丸はあいまいに笑った。仲は良かっただろうと思う。それも特別にだ。どういう特別だったかは、榛名は秋丸にだけ打ち明けていた。
「でも、今は全然付き合いないはずですよ。多分、榛名がプロになってから一度も会ってないんじゃないかな」
「マジかよ。あんだけ名前連呼してっから、よっぽど今でも仲いいんだと思ってたけど」
 そんな会話をしている間にも、榛名はしつこくタカヤの名前を呼んでいる。その姿は駄々をこねる子どもそのものだった。これが球場を沸かせる実力派エースとはとても思えない。
「……とりあえず、タクシー呼んで連れて帰りますか?」
「しか、ねえよなあ。任せてもいいか?」
「まあ、しょうがないですよね。こんなんでも、元バッテリー組んだ相手だし」
「悪いな。あ、運ぶのは手伝うから」
 これからの方針がまとまったところで、秋丸は榛名の前にしゃがみこんで呼びかけた。
「ほら、帰るよ」
「……んだよ、秋丸かよ」
 長く垂れた前髪の隙間から榛名はじろりと視線をよこした。
「はい、立って」
「……やだ」
「わがまま言うなって」
「タカヤが迎えに来るまで動かねー」
「そんなこと言ったって、タカヤだって忙しいかもしれないだろ。今いきなり言って、来れるわけないじゃん」
「関係ねえよ。俺が呼んでんだから」
「お前ね」
 酔っ払いなんて、基本的に迷惑なものである。いちいち腹を立てたり、真剣に相手をするのは馬鹿らしい。けれども、気づけば秋丸は至極真っ当な論調で榛名を説得していた。
「大体、タカヤって東京の大学行ってて、一人暮らししてるんじゃないの」
 結婚式は新郎新婦の地元で行われた。隣県であると言っても、気軽に呼びつけられるほどの距離ではない。
「……電車、まだ動いてるし」
「じゃあお前が行けば? タカヤの家知ってたらだけど」
 軽く突き放すようにそう言うと、榛名はむくれた。知らないのだろう。
二人の訣別は徹底していた。秋丸は、ある日を境に榛名がタカヤの名前を口にするのを一度も聞いていない。
「……ずっと、会ってなかったんだろ。何で今更なんだよ」
 榛名は黙ったままだった。口をぎゅっと引きむすんで、意固地な顔になっている。そんな表情を見ると、昔のことを思い出してしまう。まだ榛名が今よりぐっと幼く、高校生だった頃のことだ。
 タカヤと喧嘩した、と言っては拗ねた顔をして、どうせお前が悪いんだろうと返すと、なんでだよ! と噛み付いてきたものだった。しばらくはぎゃあぎゃあと怒りを撒き散らしているのに、その衝動が収まると一転して頼りなげな声で秋丸に言うのだ。
―でも、好きなんだ。
 それに対して秋丸が返す言葉も決まっていた。
―そうか。なら、大丈夫だろ。
 その返答がひどく無責任なものだったと気づいたのは、それからしばらく経ってからのことだった。榛名が高校卒業するのと同時に、二人は別れた。