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百万世界の彼方と彼方

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【百万世界の彼方と彼方】


風が見せた記憶は鮮明だった。

「どういうことだ…これは、どういうことだ!」

見覚えのない少年が叫んだ。少年は黒髪に緑のバンダナを巻き、赤い服を着ていた。後頭部にあるバンダナの結び目からは紫色も見える。

「紋章が大きく動いていることは解っていた…それなのに…止めることすら出来なかった…!」

何かに怯えるように、否定するように、少年は目を見開き頭を抱えた。その向かいにも、同色の服を纏い頭に金の輪を嵌めている青年が居た。青年は少し躊躇い言った。

「それは…仕方がありません。僕たちは感じ取っていただけで、見えていたわけではないんですから」
「ああ、確かに、そうだ。でも、こんなっ…どうして、こんな結末になってから見えるんだ…!!」

何がどう見え、彼らにここまで絶望を与えているのか分からない。少年の震える声は後悔と悲痛に苛まれていたが、青年は拳を握り耐えているようだった。

「マクドールさん、落ち着いて、考えて下さい。もしかしたら彼は死んでいないかも知れない」
「いや、そんな気休めは要らない。さっきの映像を見ただろう、頭に流れてきただろう。あれを見てから、彼の魂は感じ取れなくなった」
「ええ。でも、彼の紋章は砕けていません。行方は分からなくても、それだけは確かです」

青年は僅かに震えていてもしっかりとした声色をしている。少年がゆっくりと顔を上げた。しかしその顔は狂気に歪んでいた。頭を抑えていた両手をだらりと垂らし、猫背気味に青年を睨み付けた。光りの宿っていない目に青年は歯を食いしばったが、それ以外には動かなかった。固い決意の表れだ、と察した。話の流れも内容も何もまったく理解出来ていないというのに、二人の気持ちはこの絵と共に流れ込んでくるようだった。

「お前は…俺に…、俺に見届けろって言うのか…!?これ以上の絶望を味わえって言うのか!」

今にも掴みかかりそうな勢いで声を上げられても、青年はたじろいだりせず真っ直ぐに少年の目を見返している。

「あなたがそう思い、どうしても辛いと、したくないというのならこれ以上口は挟みません。もちろんあなたにそんな義務はないんですから。けれどもし、彼ではなくナナミやジョウイだったなら…僕は必ず見届けます。約束をしたわけではなくても、どんなに辛くても、僕がそうしたいからです」

ついに少年は崩れ落ちた。膝の力が抜けきったように座り込み、項垂れた。見開かれたままの目から忘れていたかのような大きな雫が地へ落ちた。

「永遠だと・・・・・・思っていたんだ・・・・・・」

ぽつりと漏らされた少年の嘆きに、青年も膝を折った。そんなことは、きっと誰もが思っただろう、けれど、そうでないことも、どこかで解っていたんだと、彼らの苦悩が伝わってくる。今彼らの気持ち以外に理解出来るものはない。ハッキリしている意識もこの場所も夢の正体も謎のまま、ただ彼らを見ていた。

「俺は失ってばかりいる…生きる意味が、もう解らない。意味なんてものも無意味なのか」
「いいえ、意味ならあります。長い時ですから見失うこともあるでしょうし、無意味だと思う人もいるかも知れません。でも、少なくとも僕は、その紋章を宿した人達の生に意味があったように、あなたの生にも大きな意味があると思っています。彼にも同じく、です」
「・・・・・・ああ、そうだな」

少年は年相応に泣き叫んだりしなかった。恐らく大切な人を失ったであろう悲しみにこうも真正面から向き合えるとは、とても容姿そのままの年であるとは思えない。はたしてそんな不可思議なことが有り得るだろうか。百万世界が存在するともなるとそういう方向にも見解を広げる必要があるのだろうか。しかしまさにそう捉えてみれば、青年の少年に対する態度と言葉遣いに納得が出来る。そして、あの嘆きにも。

―永遠だと、思っていた。
愛か、生か、それとも両方か、はたまた全く別の物か。
信じる事がいつからか支えになり、生き甲斐になり、無意識な依存になってしまったとしたら、それをなくした時どうなってしまうのだろう。切っても切れないと思っていた絆が見えなくなってしまった時、何を見ていくことが出来るだろう。空の心は何を愛しいと想い、誇り、信じるだろう。祈る事さえも忘れてしまうのではないだろうか。

「私は君に永遠なんて…望んではいけないのだろうな」

口に出したはずの音は脳にだけ響き、彼らに届くことはなかった。
視界が徐々にぼやけていき、夢からの覚醒を悟った。もう二度と彼らを見ることはないだろう。そう思いながら、遠のく意識に目を伏せた。
これはただの夢ではなく、偶然、風を辿って流れてきてしまった誰かの記憶のような気がした。ただその偶然は必然に感じられた。

作品名:百万世界の彼方と彼方 作家名:ふわ