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歓喜と狂気

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はじめて、人を欲しいと渇望した。

「大丈夫?君、立てる?」

裏路地に入り込む奴らはろくでもない奴らばかりだ。それを知りながら俺は自ら夜の池袋の裏路地へと足を伸ばした。
それがいけなかったらしい。初めて本物のやくざに絡まれた。これでも一応体術やらなんらや習っていたから大抵の奴らなら蹴散らせる。
だけど、本場はやはり違った。簡単に押さえ込まれる。地面に顔を押しつけられて、息が苦しい。
何か異国語を話していて、何を言っているのか理解できない。それでも雰囲気で俺を消そうとしていることは分かった。

(ここで、俺・・・終わるのかよっ)

心の中でぐちゃぐちゃに叫ぶけれど、圧倒的な力に屈するしかない。抗って更に傷つけられ、無様な姿などさらしたくない。
そう思って抵抗を諦め瞳を閉じようとしたとき、急に身体を押さえつけていた無情な力が消え去った。
咳き込みながら、身体を起こすとそこには呻きながら蹲っている男達が転がっていて。
一瞬、何が起ったのか分からなかった。そして男達が蹲ってはいつくばっている中で唯一そこに立っている男に目線がいく。
背中しか見えなかったが、俺とあまり背丈が変わらないであろうはずのその背中。
それなのにどうしてだろう、とても大きな背中に見える。
その男も何を話しているのか分からない異国語(先程男達が話していたのと多分同じ)を流暢に紡いでいた。
男達は俺から見ても顔色を変えて身体を引きずりながら、その場から消えていく。
(多分)俺を助けてくれた男は俺の方を振りかえると、へにゃりと言う言葉がぴったる合うほど顔を苦笑させると、俺に手を差し出してきた。
自分より幼い顔立ちをしているくせに、醸し出す雰囲気は己の遙か上を凌駕している。
薄く笑うその表情、差し出された手、その声音でさえ、全てが計算されているような錯覚に陥った。
何も言えなくなっている俺に目の前の青年は眉尻を下げて、差し出していた手を引っ込ませる。
そしてその手で俺の頭を一撫ですると、一瞥することもなくその場から身をひるか替えして池袋の雑踏の中へと消えていった。
俺はただ、それをずっと見ているしかなくて。それがとても歯がゆくて悔しくて。

「くっそっ」

はじめて、悔恨という感情を味わった。


池袋の雑踏を抜けると静かな場所に出てくる。そこには車に身体を預けて腕組みをしている男がいた。
僕は苦笑を隠さずに、すみませんとだけ謝っておく。

「おやおや・・・単独行動はあれだけ駄目だと言ったのですが?」

「これくらい見逃してくださいよ、四木」

僕は肩を竦ませて、僕よりも高い所にある顔をのぞき込む。

「まったく・・・帝人さんはウチにとって大切なお方なのですから。少しくらいは」

「あぁ、説教は勘弁です。気を付けますよ」

四木の説教は長い。もうそりゃぁここで切らないと永遠と言ってくる。
僕を心配しての言葉だというのは分かっているのだけれども。それでも面倒なのは嫌いなのだ。
四木も僕の思いが分かっているのだろう、ため息をこれでもかと吐くとふっと微笑む。

「そう、願いたいです」

「ふふ、あぁそうそう四木」

「はい?」

「面白い坊やを見つけたよ。きっとあの子はこちらが側に足を踏み入れる」

先程見つけた子供を脳裏に思い出す。綺麗な子だった。そしてあの赤い瞳。とても楽しい。
ああいう子は絶対に僕を忘れない。きっと僕を渇望するだろう。それでいい。
望め、欲しがれ、渇望しろ。僕を望むと言うことは生半可な事じゃとうてい出来ない。
それでも望むというのなら、僕はここにある。
子供ながらにしてあの子は体術を習っているようだった。そして人を観察するのにとても長けているのだと思う。
一瞬にして己の状況を理解したあの頭は僕の手にあって当然の代物だろう?
助けたのだって将来有望だだと思ったから。そうでもなければ、単独でしかもよく分からない組織に首を突っ込もうなんて思うわけがない。

「・・・またですか。いい加減にその変なフェロモン止めてください」

「何ですかそのフェロモンって?」

フェロモンって言うよりも僕が気に入ったら僕自身で手に入れようとするから、フェロモンとは違うと思うのだけれども。
不思議に思いながらその表情そのままに四木を見上げると、四木は呆れた顔をしながら車のドアを開けてくれた。

「人を引きつける吸引フェロモンですよ、ほら早く車に乗ってください」

「はいはい」

僕はこれから開花するであろう蕾に出逢えたこの夜の満月を見上げて、その開花を楽しみになっている自分自身を嗤った。


作品名:歓喜と狂気 作家名:霜月(しー)