【東方】夢幻の境界【一章(Part1)】
まともな食事にありつけるのはありがたいが、その後のことを考えると少々憂鬱になるが、いま霊夢が気になっているのは別のことだった。
「久しぶりって……宴会ならつい最近やったばかりじゃない。さすがのあいつらも集まらないんじゃ――」
ないかしら、とは続かなかった。それは考えが変わったからではない。
紫の表情に驚いてしまったからだ。
きっと霊夢は紫のこの表情を決して忘れることはないだろう。
目をボタンのように丸くして、顔を強張らせていたのだ。
突然のことでどうしたらいいのか分からず、霊夢は戸惑いながらも紫に問いかけた。
「ど、どうしたのよ? 私いま変なこと言ったかしら?」
霊夢が言葉をかけてから数瞬後、まるで突然霊夢が目の前に現れたかのように驚いてから、紫は顔を右手で覆って霊夢から目を逸らしてしまった。
いままで見たこともない紫の姿に、霊夢は動揺を隠せずにいた。
改めて先ほどの会話を振り返ってみたが、やはりおかしなことは何もなかったと思う。
一体どうしたというのか。
紫はどこかを見つめたまま動かないので、霊夢はもうとっくに冷めてしまったお茶をぐいと飲んだ。
「今日はもう帰るわ」
「え」
急に動き出したかと思うと、紫はそう言い残してスキマの中に引っ込み、間髪おかずにスキマも閉じてしまった。
ぽかんと口を開けたまま硬直していた霊夢は、スキマが完全に消えてからしばらくしてようやく正気に戻り、残っていたお茶を飲み干してこう呟いた。
「なんなのよ」
紫のことは気になるが、いつも何を考えているのか分からないし、紫の行動をいちいち気にかけていたらきりがない。
霊夢は空になった湯呑を縁側に置いて再び空を見た。
流れる雲を眺めながら、いまだに止まらぬ腹の虫の鳴き声に耳を傾ける。
まるで「なぜ紫の提案に乗らないんだ」と抗議しているかのようだった。
「宴会かぁ……」
また呟いて、霊夢は湯呑を持って室内に戻る。
「集まるかしら」
わずかに期待を込めた言葉に返事をするように、腹の虫がまた鳴ったのだった。
作品名:【東方】夢幻の境界【一章(Part1)】 作家名:LUNA