二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【東方】夢幻の境界【一章(Part3)】

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 咲夜自身は特になにも感じていないのでなんとも言えないが、自分の主が真剣な顔でそう言っているのに真っ向から反論できるはずがない。
「それは紅魔館(ここ)に関係することなんでしょうか?」
「漠然としたものだからねぇ……とりあえず気をつけておいて。私は念のために起きてるから。それと門番にも伝えておいて」
 それだけ言い残すと、レミリアは踵を返し自室へと歩いていった。
 咲夜は「かしこまりました」と言ってから軽くお辞儀をして、レミリアが見えなくなるまで見送った。
「胸騒ぎねえ」
 先ほど閉めたカーテンを見ながらぽつりと呟いた。
 レミリアの言う胸騒ぎとは違うのだが、『門番』という言葉を聞いたときから嫌な予感ならしている。
 もう一度窓に近づいてカーテンを開け、遠くに見える正門に視線を向けた。
「やっぱり」
 門の前には侵入者を防ぐために門番がいるのだが、その門番は必要以上に頭を垂れているのだ。それは客人に対するお辞儀とは明らかに違った。
 空を見れば、青の絵の具で塗りたくったような心地よいほどの快晴。
 まさに昼寝日和である。



 冬の風は冷たかったが、雲ひとつない空から注ぐ日の光がそれを紛らわしてくれる。
 かさかさと舞う落ち葉の音が子守唄のように耳をくすぐる。
 後ろのほうで妖精のメイド達が騒いでいるが、その声すら子守唄の一部になりつつある。
 こんなにも気持ちがいいのだから、少しぐらい昼寝しないと損というものだ。
 なにしろ門番というのは立っている以外、特に仕事がないのだ。侵入者が来ればそれなりに忙しくなるのだが、最近ではその侵入者すらいなくなってしまった。いや、いるにはいるのだがあまりにすばしっこく、捕まえることができないのだ。その度にメイド長に叱られてしまうのだが、それにも慣れてしまった。
 どれほどの時間が経っただろうか。いつの間にか妖精たちの声が聞こえなくなっている。その代わりに足音がこちらに近づいて――
「おはよう、美鈴」
「――――!」
 背中越しに声をかけられ、紅美鈴(ほんめいりん)は飛び起きた。
 いままで夢うつつでいた美鈴は突如現実の世界に引きずり出され、慌てて振り向くと真後ろに立っていたメイド長を見て姿勢を正した。
「お、おはようございます……咲夜さん」
 美鈴にぴったりとくっついて立っていたのだろう。頭ひとつ分小さい咲夜を見下ろす形になった。
「ずいぶんと気持ちよさそうに寝てたじゃない」
 いまの空模様と同じぐらい晴れやかな笑顔で言ってるのに、美鈴の背筋には冷や汗が浮かんでいた。なまじ美人なだけあって異様な凄みがあるのだ。
 美鈴は引きつった笑みを浮かべながら、無様な言い訳を取り繕った。
「いや~いい天気ですね! こういう日は咲夜さんも一緒に――」
 いつの間にか咲夜の右手には一本のナイフが握られていた。ナイフ使いらしい手際の良さではあるが、いったいどこから取り出したのか。もしかしたら紅魔館の敷地内の至る所にナイフを隠していて、時間を止めてからそれを持ってきているのだろうか。
 これ以上の抵抗は無駄だと悟った美鈴は、呆れ顔でこちらを睨んでいる咲夜に先ほどとは違った意味で頭を垂れた。
「すみませんでした。やっぱり刺激がないと眠くなってしまって……」
「まったく……とにかく昼寝もほどほどにしなさいよ! それとお嬢様から伝言があるわ」
 呆れ顔から一変して真面目な顔になった咲夜を見て、美鈴も門番にふさわしい表情になる。
「お嬢様がなにか胸騒ぎがすると言っていたわ。まだ漠然としていて、ここに関係することかどうかは分からないけど、とりあえず警戒しておいて。異変を感じたらすぐに連絡すること」
「了解しました」
 美鈴の返事に満足したのか、咲夜は一度だけ頷くと館へと戻っていった。
 見れば、いままで騒いでたメイド達が真面目に仕事をしている。
 ここに来る前にメイド達を叱っていたらしい。咲夜が現れる前に静かになったのはそのせいだろう。
「ふわぁ~」
 そんな間抜けなあくびが出たのは、咲夜の背中が小さくなってからだ。
 緊張が解けたせいか、また眠気が襲ってきたのだ。
 そもそも警戒しろと言われても、いったい何に警戒しろというのか。変わったところなどないし、どこを見ても平和の一言で片付けられてしまう。
 美鈴はもう一度あくびをして、振り向いた。
「痛っ!」
 後頭部に突き刺すような痛みが走ったのはその時だった。
 何事かと痛みのするところを触ってみれば、本当に一本のナイフが突き刺さっていた。
 なるほど、眠気を覚ますにはちょうどいい刺激だった。