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玉木 たまえ
玉木 たまえ
novelistID. 21386
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リトルグッバイ

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 変化は、春から夏へのうつろいの季節に訪れました。
その日、いつもと同じように乗り込み、後ろの座席にモトキと並んで腰かけたタカヤは、モトキが眠り始めても、前を向いたままでした。
フロントガラスの手前にくっついた、行き先表示の電光掲示板をじっと睨んで、、体を固くしています。タカヤの降りるバス停のひとつ前の降車場所がアナウンスされるまで、ずっとそのままでした。
 タカヤは、モトキの名前を呼びましたが、その声には以前のような、ほのかに灯った柔らかな情熱はありませんでした。頑なに閉じた、よそよそしさすら感じる声音でした。
 何度か呼んで、モトキが目を覚まさないことが分かると、タカヤは立ち上がって、道をふさぐモトキの足をまたぎこしました。
本当は、いつだってそう出来たのかもしれません。
「……っした」
 目を閉じたままのモトキに、義理のようにおざなりの挨拶をして、タカヤは降りていきます。
モトキがまぶたを開いたのは、私がタカヤを降ろして、ドアを閉めて発車してからのことでした。モトキはしばらくぼんやりと座っていました。

 次に二人が乗り込んで来た時に、タカヤはモトキに、自分が通路側に座る、と主張しました。
「俺の方が先に降りるんですから」
 全く今更のことをタカヤは言いました。
モトキは、ふうんと鼻を鳴らして、それから座席の奥へと腰を下ろしました。
いつもは伸びやかな足が、今日は窮屈そうです。
そうして、以前のように話をするでもなく、眠ってしまったモトキをタカヤが起こすわけでもないのに、それでも二人は意地になったように隣に座り続けました。

 その日が、モトキが私に乗る最後の日だということは、他のチームメイトたちのおしゃべりで知りました。
モトキは普段よりもずっと早い時間に、チームメイトたちにまざって乗り込んできました。
引退する三年生たちは昼で練習は終わりなのだそうです。
 モトキは、まっすぐに一番後ろの座席に向かうと、ひとりでそこに座りました。
席の真ん中を陣取って、足を思い切り伸ばしたそれは、いつかの姿に似ているようでしたが、少し違うようです。
仲間たちのさざめく声を聞きながら、モトキはまぶたを閉じました。
 やがて、いつもタカヤが降りていたバス停の手前まで私がたどり着いた頃、モトキは目を覚まして、何かを探すように、右隣を見ました。
ぽかりと空いた空間に、モトキが何を思ったのかは、分かりません。
それから、バスを降りるまで、モトキは自分の隣を見つめていました。
いつかのタカヤがモトキを見る時にそうしていたような、ひそやかな熱を孕んだ視線でした。

 車庫にたどり着いた私は、少しの休憩のあと、再び走り出しました。
いつものように乗客を乗せ、降ろして、反対側の終点につき、折り返してまた車庫へと向かいます。
一日のうちにこの往復を、何度も繰り返すのです。
市営グラウンド前からは、様々なスポーツクラブの子どもたちが乗り込んできますが、この時は随分と遅い時間だったので、バス停の前に立っていたのは、一人の少年だけでした。
その少年は、タカヤでした。
 彼はひどく張り詰めた顔をして、私に乗り込んできました。ステップに足をかけて通路に上がったタカヤが目指したのは、それまでと同じ、一番後ろの座席です。
 タカヤは、席の奥に座ると、足の上に肘をついて、頭を抱えるようにしました。短い髪の毛を掴むように、指を立てて、固く目をつぶっています。
「せいせい、するっ……」
 低く、喉をしぼるような声でタカヤは呟きました。
言葉ほどには、清々しくも、うれしげにも聞こえない声で、タカヤはそう言いました。

 それから先の彼らのことを、私は知りません。
わかるのは、ほんのわずかの間、私という箱が彼らにとって穏やかな時間を与えていたのだろう、ということだけなのでした。
作品名:リトルグッバイ 作家名:玉木 たまえ