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愛の形は人それぞれと言うけども

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臨也さんは『嫌な人』だ。
あんなに人間ラブとか叫んでるくせに、僕のことは嫌いらしい。
今日もまたにんまりと唇を歪めて、爬虫類みたいな目を細めて、僕に毒を吐く。

「…なーんでこんなとこにいるのかなぁ、君は。」

それを言うなら僕のセリフだ。
だってここは本屋とはいえ漫画コーナーだし。
臨也さんが漫画を読むのなんて想像つかない。

「・・・スイマセン。」
僕がそう言うと、わざとらしく臨也さんはため息を吐いて、大げさに首を振る。
「あのねぇ帝人くん?俺は『なんで』此処に居るのかを聞いてるだけで、別に謝って欲しいわけじゃないんだけど?」
そう言われれば確かに正論だ。
だけど威圧的に問われると思わず謝ってしまうのは日本人の性だ。

なんて、言いかえそうもんならその何十倍にも言葉を連ねられて結局また謝る羽目になるから言わない。

「…漫画の、新刊が出てて…。」
「へぇ?帝人くんてばいい歳して漫画なんて読むんだ?」
ニヤァ〜と、効果音のつきそうな表情で臨也さんは僕を馬鹿にする。
いい歳って…高校生が漫画読むのはいたって普通だと思う。

「べ、べつに良いじゃないですか…。」
「え?俺、悪いなんて一言も言ってないよ?」
臨也さんはとぼけてそう言う。
まぁ、確かにそうだけど。
「で、何読むの?」
持ってた単行本を半ば無理やり取られた。

表紙を見ながら臨也さんは「ふぅん。」と、1人で納得したように頷く。

「すごく単純そうな話で帝人くんみたいにおつむの弱い子にはピッタリなんじゃない?」

・・・酷い。
僕は何も言い返せないまま、臨也さんに本を帰して貰おうと手を伸ばした。

けれど、すっと臨也さんは僕の手を避ける。

「帝人くんはどのキャラが好きなわけ?」

なんで、そんなことまで言わなきゃなんないんだろう。
そう思って唇を噛みしめると臨也さんは「早く言いなよ。」と僕を責める。

「…コレ、ですけど。」

ちょうど表紙に乗っていたキャラを指さす。
僕はこの男らしいキャラが好きだった。だから正直このキャラだけは馬鹿にされたくない、

そう、思ってたのに。

見る見る内に臨也さんの表情がしかめっ面になった。

「この、顔に傷がある奴?」
「はい。」
「はぁ?なんで?わざわざコレ選ぶ?」
臨也さんは信じられない、とでも言う様に表情を歪める。
「傷があるし、金髪だし、筋肉質だし…こんなのの何処が良いの?」

余りにも馬鹿にしたようにそう言うので、僕はカッとなって本を奪い取った。

「…っ、臨也さんの、馬鹿!」



ヤバい。

帝人くんに『馬鹿』と言われた。
言った後、帝人くんは慌てて口を押さえてすごく小さな声で「スイマセン」と言って逃げ去るように出て行った。

なんていうか、もうっっっ。

かっわいいなぁ〜〜〜〜。

(臨也さんの、馬鹿!)
頭の中で何度もリピートさせる。
ああ、俺はこの声だけでヌけそう。

そう、ウットリしたところで帝人くんが好きだと言っていたキャラを思い出した。
帝人くんが今日持っていた漫画本はもちろん全巻買った。
愛しい帝人くんが好きだと言った物だ、俺も好きになれる。
だけど、あのキャラだけはどうにもいけ好かない。

金髪で、煙草を吸って、筋肉質で・・・誰かを連想させる。

だいたい、俺と余りにも対照的なところが嫌だ。
漫画の中にはちゃんと黒髪で細身で顔の良い、キーワードだけ揃えれば俺と似ているキャラも居るのに(敵キャラだけど)
なんであえて、ソレかなぁ。



・・・厄日だ。
僕は出かけてすぐに憂鬱になった。
向こうから歩いてくる人物に、僕は今すぐに引き返したくなる。

だけど、すでにニヤニヤしているところを見ると、向こうは僕に気が付いてる。
ここで引き返せば、すぐに追いかけられて『人の顔見て逃げるなんて酷いね。』と、また嫌味を言われる。

「やぁ、帝人くん。」
「…こんにちは。」
僕が俯いて無愛想に挨拶するにも関わらず臨也さんはニマニマと笑う。
「こんな良い天気な日に1人で何処行くの?」
臨也さんこそこんな昼間から何処へ行くんだろうか?
…なんて、聞けもしない。
「…ドーナツ屋へ…。」
「ドーナツ?」
「今、100円セールなんで…。」

ああ、また馬鹿にされるだろうなぁ、
そう思いながら言うと案の定臨也さんは心底楽しそうに笑った。

「アハハ、100円セールにならないと買えないドーナツを今から買いに行くんだ?」
的確に突かれて僕は押し黙る。
…貧乏学生なんだから仕方ないのに…。
「…俺も一緒に行ってあげるよ。」

信じられないことに臨也さんは急にそんなことを言いだした。
僕の数少ない楽しみさえ邪魔する気なんだろうか…。

断固拒否する!!

なんて、僕には言えるわけも無い。


正直、ドーナツ屋に並ぶ臨也さんはすごくミスマッチだ。
周りの女の子たちがざわめいている。
臨也さんは確かにかっこいいといえばかっこいい。
ほんと、後は性格さえ良ければ…。

そんなことを思ってると、ふわっと髪を撫でられた。
びっくりしてみると、臨也さんが馬鹿にしたように笑っている。
「帝人くんの髪ってほんと今時らしくもない真っ黒でもさっとしてるよねぇ。」
…口を開けばこれだ。
「・・・じゃぁ、今度茶色に染めてみます。」
嫌味に嫌味で返しただけなのに、臨也さんは急にうろたえた。
「茶色?帝人くんが?何言ってるの、そんなの似合うわけ無いよ。」
「じゃぁ金髪とか。」
「もってのほかだよ!帝人くんみたいに田舎くさい子にはこの真っ黒でダサい髪色が似合うんだから。」
・・・どっちなんだこの人。

僕がトレーを取ると、そのまま臨也さんに奪われた。
「帝人くん、何食べたいの?」
「え?」
「ドーナツさえ好きな時に食べられない可哀想な君に、俺が奢ってあげるって言ってるんだよ?」
臨也さんはにっこりと笑う。
・・・って、え?

「え、遠慮します!」
「はぁ?なんで?」
「なんで、って…だって」
「奢ってあげるって言ってんだから素直に奢られなよ、ホラ、好きなの選んで。」
ぐいぐいと、強引に引っ張られるようにして、結局買ってもらった。
僕はどうしていいのかわからないまま、ものすごい量のドーナツが入った箱を持つ。

「あ、あの、コレ…。」
「俺のはチョコかかってるのと、砂糖かかってるやつね、あとは全部君のだよ。」
十数個買っといて僕がそんなに食べきれるわけもない。
だいたい、臨也さんが「これ何?あれは?」と、興味深そうに買ったんじゃないか!
「…臨也さん。」
「ん?」
「うち、来ますか?」

僕の部屋に寄ってて貰って、お茶くらい出して食べよう。
そう思ってそう言うと、何故か臨也さんは動きを止めた。

「臨也さん?」
「・・・。」
ピタリと動きを止めた臨也さんは不気味だ。
少しして、臨也さんは苦しげに表情を歪めて僕を見た。
「・・・帝人くん、君って子は・・・。」
臨也さんはそれだけ言うと、ハァァア、と大きなため息を吐いた。
…なんでため息を吐かれなきゃいけないんだ僕は…。

「わかったよ。」
「え?」
「君がそこまで覚悟してくれてるなら、俺も覚悟を決めるよ。」

覚悟?
一体なんの話だろうか?